【第126回】ウクライナ侵攻と食料需給 その2

学長コラム 2022.5.13

今回は、第2回目として、穀物等の国際需給構造・価格形成の変化の問題を取り上げます。

 

ウクライナ侵攻と国際市場の反応

穀物等の需給・価格の指標を提供し、世界の生産・貿易をリードしているのが、「アメリカ農務省穀物等需給予測」である。
農林水産省の「食料安全保障月報」も、そのデータソースは米国農務省の予測にあり、いずれも手軽に検索できる。

 

価格・需給の指標とシカゴ商品取引所

CBOT(Chicago Board of Trade)では、現在の穀物価格がいくらか、将来、例えば、次の収穫、1年後にはいくらで取引されるかを「農産物の商品先物取引の場」として形成している。
つまり、価格が高ければ生産を増やし、安ければ生産を減らすといったことのため指標を提供している。
そこには、戦争や天候も織り込まれている。

CBOTのトウモロコシ、小麦の市況は、ここ10年ほどにない最高値を形成している。
注意しなければならないのは、現在の期近(直近)価格は、ウクライナ侵攻に原因があるのではなく、昨年の北米の不作にあるということである。
ウクライナ侵攻の本格的影響は、初夏にかけ明らかになって来るだろう。
前回と重複するが、この夏にかけて生産の破壊、担い手喪失、肥料不足、短期には、陸上交通の途絶、オデッサ港の封鎖、黒海の航行が困難になるなどに要注意である。
取引所の数値からは、目が離せない。

 

穀物・油糧種子の作期と生育

①麦は冬作物、トウモロコシ・大豆は夏作物

国際需給を考えるときの作物年度・年産も次のように異なる。
コメは11月~10月、麦は7月~6月、大豆は10月~9月をもって1年とし、その終わりの月の属する年をもって○○年産という。
この夏に収穫する麦は2022年産である。

文明発祥地の主要作物でもある麦は、もともと冬作物で、秋に種子をまいて冬場の降雨で水分を取り、低温を経て温度上昇期にかけて成長する。
小麦の名称に「ハード・レッド・ウインター」など季節名がつくのもその名残りであろう。
ダーク・ノーザン・スプリングなどの春小麦は、冬小麦からの突然変異といわれる。

②北半球と南半球

当然のことだが、南北で季節は逆転している。
米国、カナダ、欧州とブラジル、アルゼンチン、豪州では、お互いが凶作、不作、豊作を補う関係にある。
目下の穀物価格の高騰は北米の不作に原因があり、逆に、現在の南半球は豊作だ。

 

生産量、貿易量・比率

穀物等の輸出国・輸入国にとって大事なのは、十分な貿易量が保証されるか、自国での在庫が潤沢であるのかに尽きる。
そのカギを握るの「貿易比率」である。

コメ、麦、トウモロコシなどの穀物は、ごく大雑把にいって全世界で25億~27億トン生産されるが、輸出向けに回る貿易比率は、小麦では23%、トウモロコシで12%、コメは8%だ。
つまり、コメは5億トンも生産されるが貿易比率は小さく基本的に自給作物だと分かる。
一方、油糧種子で第2位の大豆は、生産が4億トン、その40%以上が貿易に回る。
しかも、その大部分の1億トンを中国が買っている。

 

輸出入構造の変化を予想

ウクライナからの小麦について、中近東は、輸入先をアメリカ、カナダ、オーストラリア(以下、米加豪と略称する)へと切り替えられるだろうが、北アフリカは、価格が高騰した小麦を入手できなくなるかもしれない。
トウモロコシの仕向け先である中国は、当面、自らの在庫を放出しつつ、アメリカ、南米からの輸出を求めるだろうから、トウモロコシの価格は、肥料価格の高騰もあって高騰を続けるだろう。

現下の経済制裁下では、ロシア小麦のかなりの部分を中国が引き受けて、これまでの米加豪からの輸入を「ロシア産に振り替えて恩を売る」という構図も考えられる。
いずれにせよ、ロシアの経済力は低下するだろう。

関連記事

NAFUマガジン一覧へ