ダイズ(エダマメ)圃場

病名:ヘアリーベッチ灰色かび病
宿主名:ヘアリーベッチ【学名:Vicia villosa Roth
病原菌名 Botrytis cinerea  
発生場所: ダイズ圃場付近
発生時期: 6月下旬~7月上旬
病徴:葉に輪紋状の病斑を形成する。中心とふちは暗褐色、内部は灰白色。
形態:分生子の大きさは長径11―15 µm、短径9.5―12 µm。
まめちしきBotrytis cinereaによる灰色かび病は多犯性の病害として有名ですが、本学でも様々な宿主が確認されました。病原菌はいずれも同じBotrytis cinereaですが、ヘアリーベッチでの病斑は見事な輪紋状になっていました(図2)。
トマト灰色かび病では、罹病葉に分生子柄がたくさん形成されているのが肉眼でもわかりやすかったのですが、ヘアリーベッチでは少なめでした(図3)。
リビングマルチや緑肥として利用されることが多いヘアリーベッチが病害の伝染源になってしまうのは本末転倒ですので、今後もヘアリーベッチの病害に注目していきます。


(図1)圃場で観察した罹病葉


(図2)病斑


(図3)病斑上の分生子柄と分生子


(図4)分生子柄と分生子




病名:ダイズ褐紋病
宿主名:ダイズ【学名:Glycine max (L.)Merr.subsp.max】  
病原菌名 Septoria glycines  
発生場所: ダイズ圃場付近
発生時期:5月下旬~7月下旬(学内の収穫日)まで
病徴:葉に褐色の病斑を形成し、周囲は黄色くなる。病斑上に黒色の分生子殻を形成する。発病が激しければ早期落葉を引き起こす。
形態:糸状~細長い鎌形で隔壁をもつ無色の分生子を形成する。大きさは長径25―32 µm、短径1.5―2 µm。
まめちしき:Xanthomonas axonopodis pv. glycinesによる葉焼病、Pseudomonas savastanoi pv.glycineaによる斑点細菌病と病徴が類似していますが、罹病葉を実体顕微鏡で観察し、病斑上の分生子殻や、分生子殻からにょろっとした透明な胞子角(図2の赤丸の中が分かりやすい)が突出していることを確認できれば、区別することができます。
 また、Septoria glycinesは水媒伝染することが知られており、降雨やスプリンクラーの水しぶきによって地表付近のダイズ葉に飛散します。そのため、一般に下葉から感染していくことも細菌による病害との区別に役立つでしょう。
本学のダイズ病害としては最も多く確認され、5月頃に下葉に感染し、7月頃になると落葉を引き起こしていました。本学ではエダマメとして早期に収穫するためか、激発には至っていません。
国内ではほとんど問題になっていませんが、国外では生育後期に発生しやすいダイズ病害の一つとして紹介されていることがあります。


(図1)圃場で観察した羅病葉


(図2)病斑上の胞子角


(図3)分生子




病名:ダイズさび病
宿主名:イズ【学名:lycine max (L.)Merr.subsp.max
病原菌名  Phakopsora pachyrhizi
発生場所: ダイズ圃場付近
発生時期: 10月中旬~  
病徴:葉に小さな茶褐色の斑点を作り、葉の裏に夏胞子堆を形成する。進行すると葉が黄化し、早期落葉を引き起こす。  
形態:夏胞子は倒卵形、無色。表面構造は細刺状。夏胞子の大きさは長径18.5―25µm、短径14―17.5µm。
まめちしき: P. pachyrhiziは幅広いマメ科植物に病原性を示すさび病菌です。 本学では大学入り口付近のクズ(図2・3)とダイズ(図1)への感染が確認されました。
さび病菌には最大で5つの胞子世代が存在します(精子世代、さび胞子世代、夏胞子世代、冬胞子世代、担子胞子世代)。そのため多様な生活環(ライフサイクル)をもつ種がいます。例えばナシ赤星病(他ページに記載)などは生活環が解明されていますが、P. pachyrhiziの場合、自然界では夏胞子世代と冬胞子世代のみが見つかっています。
夏胞子は分生子のように無性的に増殖し、感染拡大を担っています。冬胞子は栄養吸収が難しくなったときに休眠するための世代で、発芽して担子胞子になり別の宿主(今の宿主とは系統的に異なる)へ移動する役割をもちます。このうち、P. pachyrhiziの感染拡大において重要なのは夏胞子世代であると言われています(引用1)。
さび病菌は生きた植物からしか栄養を吸収できない「絶対寄生菌」です。そのため、冬に宿主が枯死すると菌も生存できません。日本のダイズ栽培は北海道を除いて水田転作畑が主流で、主要生産国のような大規模圃場ではない上に、冬は宿主が越冬できる地域が限られます。このような環境から、P. pachyrhiziによるダイズさび病がダイズの主要生産国(アメリカ・ブラジル・アルゼンチンなど)で最重要病害として知られているのに対し、日本では大きな被害に至っていないと考えられます。
ちなみにダイズにさび病を引き起こす種として、Phakopsora meibomiaeも存在します(引用1)。ダイズ生産国が多い中南米にはもともとP. meibomiaeが生息していましたが、アジアからP. pachyrhiziが侵入すると、競争に負けてしまったようです。
また、関東地方では8月には本病が発生しているのに対し、新潟県にある本学内では毎年10月下旬頃になってようやく確認されます。新潟県では冬の降雪によって宿主が枯死するため、温暖な地域で越冬した夏胞子が風に乗ったり野生宿主を経由したりして一次伝染源となるまでに時間を要します。そのため発生時期に差が生まれていると推察しています。
ダイズの主要生産国と日本のダイズ病害の発生状況を比較すると、病害の発生が環境要因に左右される、ということがとても分かりやすいと思います。
本学では1年実習で毎年エダマメを栽培していますが、その栽培期間中(~7月)にはダイズさび病は観察できません。クズはたくさん自生しているので、そちらをターゲットにすることをおすすめします。

引用文献
1)山岡裕一(2014)近年大発生したさび病とさび病防除に対する基礎生物学的研究の重要性.日植病報 80:40-48


(図1)P. pachyrhiziに感染したダイズ


(図2)P. pachyrhiziに感染したクズ


(図3)クズの葉裏に形成された夏胞子堆


(図4)P. pachyrhiziの夏胞子