【第64回】「いただきさん」

学長コラム 2019.10.18


頭上運搬

わが国でも、昔は「頭上運搬」の風習がありました。
その代表的な例は、近郊の里や山から京都の町にやってくる
大原女」(おはらめ・小原女とも)や「白川女」です。
いまはすっかり廃れて、10月の「時代祭」に姿かたちを記念に残して参加するだけです。
彼女らが頭上に載せて運ぶのは「柴」「薪」「花」などですが、
四国には、食物である「魚」を運ぶ地域も残っています。
また、女性による頭上運搬は世界中に例があります。
わが国では、「販女」(ひさぎめ)ともいいますから「女性の商人」でよいでしょう。

 

いただきさん

10年以上も前のことですが、
南に太平洋、北に山脈を背負う徳島県の由岐・漁業の町を訪れたことがあります。
ここでは、かつて浜で獲れた魚を女性たちが頭上に載せ、
山や峠の狭い道を通って、隣の町へ運搬・販売していたために
彼女たちのことを「いただきさん」と呼んでいたといいます。

 

おたたさんなど

愛媛県・松山の近郊、松前(まさき)では、
おたたさん」という呼び名の女性の魚商人がいました。
これも、「いただきさん」と語源は同じのようです。

さらに、香川の高松には、いまも形を変え「いただきさん」が残っています。
漁師を夫に持つ女性や夫を亡くされた方々が、自転車にリヤカーをつけて魚の行商をします。
注文を取り、魚をさばく間には世間話をするなど地域密着の商売を続けているのです。
なお、昔は桶を担いだり頭上に載せていたのが現在の形に変わっていったのでしょう。

2017年10月27日号で中世の聖絵(七十一番職人歌合)を紹介し、
食料産業、ビジネスの担い手は古くから「女性」であったといいました。
この聖絵にも頭に手ぬぐいを置いた女や「大原女」の姿と歌も描かれています。

 

食を「いただく」とは

食事の始まりに「いただきます」といい、食事の終わりに「ごちそうさま」といいますが、
由来や意味については、また稿を改めて解説することにしたいと思います。
ちょっとだけヒントをいえば、「命をいただく」
神様からの「賜り物⇒賜(た)べ物⇒食(た)べ物」
そして、「おし頂く」にまでつながっていくのだと思います。

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