食農大の日常
【授業紹介】養殖サーモンが日本の水産業を変える<起業イノベーション論>
食・農・ビジネス分野の最前線で活躍されている方をお招きして講演を聴くことができる授業「起業イノベーション論」。
7月27日(火)の講義は、Proximar株式会社 中山圭介様より「世界の食料供給を担う海外イノベーションの展開(水産)-養殖業から養殖産業へ-」と題してオンラインでご講義いただきました。
-Data-
会社名:Proximar株式会社
事業:アトランティックサーモンの陸上養殖
富士山のふもとで閉鎖循環式陸上養殖
年間6300トンの生産予定
- 日本の養殖業とサーモン養殖
日本の水産物の国内消費内訳は、半分以上が輸入で賄われています。
また、そのうち国内生産のブリやハマチ、マダイ、カンパチなど24種類の魚は、生産量の半分以上が養殖で生産されています。
水産資源を保全しながら食用の国内水産物生産を増大させるため、養殖業に注目が集まっています。
中でもサーモンの養殖は日本国内で広く行われており、地域ごとに様々なブランドサーモンが生産されています。
しかし、各ブランドの生産量は小規模のものが多く、平均産出額は約3300万円ほど。(2015年時点)
小さな経営体で少量生産が主流となっている養殖業は、収益性が低いため後継者不足であり、産業衰退の危機に瀕しています。
- ノルウェーのサーモン養殖に学ぶ
では、どうすれば解決されるのか。
養殖業で成功しているノルウェーの事例を学びながら考えてみることにしました。
ノルウェーは地形的にも入り組んだ海岸線が多く、波の影響を受けにくいため養殖業が古くから盛んであったようです。
さらに補助金など、国を挙げて養殖を奨励しているため養殖業が発展してきた経緯があります。
そんなノルウェーの養殖産業は、日本に比べて1施設当たりの生産量が格段に多く大規模です。
管理は自動化され、効率化が進み収益性が高まり、養殖業は人気の産業になったのだそうです。
ノルウェーの養殖産業は今もなお進化を続けており、沖合での養殖や、魚の排泄物、食べ残しの餌にも配慮された環境に優しい養殖事業を推進しています。
また、陸上施設で行う養殖技術の開発が進み、中山様率いるProximar株式会社では、今まさに静岡県小山町で陸上養殖施設の建造工事中とのことです!
陸上施設で養殖は下記のとおり多くのメリットがあります。
<陸上施設(閉鎖空間)での養殖のメリット>
◆水温管理が可能。成長を促進しやすく、病気になりにくいため薬不使用=安全な食品として供給可能。
◆水中の酸素、二酸化炭素量をモニタリングして管理可能。
◆残った餌やフンの回収・再利用が可能。効率的な給餌ができ、水質汚染を防げる。
◆天候に左右されない。
◆消費地に近い場所で生産可能。鮮度を保ったまま消費地に配送可能。
◆大規模施設の場合は、ソーラーパネル併設で電力供給可能。
- 持続可能な養殖産業へ
最後に、近年注目を浴びているSDGsの取り組み予定についてもお話しいただきました。
陸上で生産し、消費地までの距離が短くなるため輸送に掛かる燃料や二酸化炭素排出量を低減できるのだそうです。
さらに、生産で使用する水をリサイクルしたり、太陽光パネルによる発電で補うなど省エネ技術を活用した生産計画を立てています。
また、ノルウェーではサーモンに与えるエサの研究も進んでおり、植物性原料70%の餌がノルウェーで開発されました。植物由来成分が多くても成長率を維持して健康に育つ餌で、動物性原料よりも効率が良いそうです。各企業が植物性原料100%に近づける努力を続けているとのことでした。
最後に中山様は、「日本の養殖業に若い人が参入しやすい環境づくりを目指しています。そのために大きな産業へ成長させ、地方でも行えるように改革を行い、所得を増やすことで水産業の地位を向上させたい」と語ってくださいました。
講義後には学生から多くの質問が寄せられました。「陸上養殖施設のデメリットはについて質問し、もっとも大きな問題はコストが掛かることと知った」「ノルウェーでサーモン養殖が盛んになった理由の一つに、国外マーケティングを共同で出資して実施していたことが驚きだった」など、理解と興味がより深まったようです。
現場の最前線をリードする方の、普通では聞くことのできない体験談や想いに触れることのできる「起業イノベーション論」。
今年度も数多くのゲストスピーカーのみなさまにご協力をいただきました!
本当にありがとうございました!