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【第15回】新しい形の大学運動部

新潟キャンパスでの陸上競技部競歩班の早朝練習



新潟食料農業大学の指定強化部

新潟食料農業大学には、指定強化部が5つあります。
2018年の開学時に創設された自転車競技部、2020年創設の男子ラグビー部、柔道部、陸上競技部、2023年創設のバドミントン部です。
いずれの部も、大学のサポートを受けて、監督やコーチングスタッフのもと、競技力向上に努めています。運動部ですので、勿論、日本のトップチームになることや日本を代表する選手を輩出することを目指していますが、重要な事は、大学スポーツクラブの新たな形を確立することと考えています。
大学のスポーツに求められていることは、学業を第一とすることと、学生が自主性を持って取り組むことです。大学の勉強をおろそかにしてスポーツだけする、自分で何も考えず、コーチの指示に従って漫然と練習を続けるなどということはもってのほかという考え方です。

「文武一道」という言葉をご存知でしょうか。
柔道の神様とあがめられた三船久蔵十段(1883年−1965年)が残した言葉です。
宮城県仙台第二高等学校(前身は1900年設立の宮城県第二中学校。三船十段は3回生として1903年に卒業。同校は1904年に宮城県立仙台第二中学校に改称)の講堂にその書が掲げられています。私は1969年、東京都立立川高校1年生の時に水道橋まで行き昇段試験を受けましたが、三船十段の講道館で黒帯を取れたことを今でも誇りに思っています。
「文武一道」は、勉学とスポーツの力を一つの道として極めるといった意味です。
スポーツも勉強も、自分で考え、自分で努力した者だけが高みに到達できます。日々、努力し、文武両方を身につけてほしいという意味で、文武一道とよんでいます。
多くの人はスポーツで一生食べて行くことはできません。スポーツから離れた時に大学で学んだことを活用してもらいたい、そのために文武一道で大学時代を過ごしてもらいたいと考えています。
本学では運動部の学生の自主性を重視してきましたが、その結果、上級生と下級生の間に前近代的な上下関係はなく、自分たちで考えて練習し、試合に臨む形が作られてきています。このような文武一道の心構えと自主性を大切にした新しい形の大学の運動部が確立されつつあります。


陸上競技部競歩部員と鈴木雄介コーチ(右端)



競歩

先日、陸上競技部に今年できたばかりの競歩班の練習を見てきました。
朝6時、赤茶色の走路の中の朝日に光る緑の芝生に、細く引き締まった身体の部員が集まり、コーチとともに準備体操を始めます。新設の競歩班は1年生の男子6人、女子1人です。全国の高校から集まってきた選手たちは、陸上競技場のすぐ隣の朝晩食事付の大学寮に住んでいます。陸上競技場のフィールドに立って南を向くと、すぐ左側が寮、すぐ右側が新潟食料農業大学の新潟キャンパスの講義・研究棟です。競技場とキャンパスが直結した場所に住んで練習して学べる最高の環境です。
1年生の講義は1日だけが新潟キャンパスで、他の4日間は胎内キャンパスですが、胎内キャンパスまでは学バスで往復できます。また、ビジネスコースに進学すると、3年次からは新潟キャンパスですので、衣食住、勉学、運動、すべて同じ場所で行えます。

競歩班の専属コーチは世界陸上金メダリストの鈴木 雄介氏です。鈴木氏は2019年カタールのドーハで行われた世界陸上競技選手権大会(通称:世界陸上)の50km競歩で金メダルを獲得しています。
テレビで見た生中継は感動的でした。
9月末の深夜とはいえ、ドーハは暑く、保冷剤を両手に握り、帽子のなかにも仕込んで、サングラスを掛けてライトに照らされた道路を淡々と歩く姿がテレビに映し出されていました。私はカタールには行ったことはありませんが、タイやインドネシア、新疆ウイグルの熱い夜の息苦しさを思い出しながら応援を続けました。
ゴール前で帽子とサングラスをとり、苦しさから解き放されたような笑顔が印象的でした。鈴木氏は首位をキープしたまま50kmを歩ききって優勝しました。
暑熱対策は万全と解説されていましたが、汗と補給時に被った水で全身ずぶ濡れになりながら、4時間以上にわたって夏のドーハを一人黙々と歩く姿に魅せられました。走ることが許されないルールに従って歩く姿は禁欲的で、千日回峰行を続ける修行僧を思わせました。
このような偉大な世界チャンピョンが、本学のコーチを引き受けてくれたことに大いに感謝しています。

来年も複数の競歩選手が入学する予定です。新潟食料農業大学が競歩のメッカになればと願っています。また、市民講座なども計画されており、新潟や胎内が競歩の街として発展して行くことも楽しみです。
競歩の基本となるウォーキングは故障が少ないと鈴木コーチは言います。
ジョギングでは体重の何倍もの力が関節に集中して膝や腰に負担を掛けるために故障に繋がります。物理の公式では、衝撃力は速度の2乗に比例するため、関節に加わる速度が2倍になれば衝撃力は4倍になります。代表選手レベルは別ですが、ウォーキングでは関節に対してマイルドに体重が乗るため、故障は希です。そのような意味でも健康スポーツとして最適です。また、正しく歩くためには体幹を締めて腰を伸ばし、手をスムーズに振る必要があり、全身運動でもあります。
このように素晴らしいスポーツを、地域に溶け込んだ形で本学から発信して行きたいと思っています。



(中井ゆたか)


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