学長コラム
【第14回】やはり気になる食料自給率 その② 数字から何を読み取るか
食料自給率は農業生産、食生活、国の経済の総合力
豊かといわれ、食肉、乳製品、油脂類を多く食べる食生活では
その飼料・原料のトウモロコシ、大豆などを輸入に依存し、その消費ウエイトを大きくし、
自給率を低める方向に働きます。
農産物を輸入できる経済力が、食料自給率を下げることにもなるのです。
経済力が弱くて食料を輸入できない国々では、たとえ栄養不足になっても
国産の農産物・食料だけで生活せざるを得ません。その結果、食料自給率は100%に近くなります。
FAOが発表している「穀物自給率」では、ネパ-ル、バングラデシュが97%と
日本の穀物自給率28%をはるかに上回っています。
食料自給率が高かったころ
農水省の試算では、1960年のカロリ-ベ-ス総合食料自給率は79%でした。
高度経済成長が始まったばかりで食生活水準がまだ低かったときの数字です。
アメリカで「日本型の食生活が望ましい」と紹介されたのは1977年で、
日本の自給率は50%程度でした。(現在はカロリ-38%)
食生活も経済力も貧弱だった時代の食料自給率と比較してみても
これが幸せな姿なのかどうか考えさせられます。
最も望ましいのは、「国内生産力は高く、輸入もできる経済力もある」で、「高ければよい」ではなく、
健康的な食生活も考えつつ、国産、輸入・輸出と多角的に見ることです。
穀物消費量(一人当たり)
食肉、とくに飼料効率の悪い牛肉を多く消費する国、油脂を多く消費する国は、
その飼料・原料が穀物ですから、一人当たりの消費量も大きくなります。
アメリカが1066kg、中国が308kg、これに対し日本は246kg、牛肉を食べないインドは181kgですから、
こう見ると、人口が増えたら直ちに食料が足らなくなるともいえません。
食生活のあり方も関係していますから、100億人になろうとする世界人口も
工夫次第で養うことができる可能性があります。
(牛肉は、豚肉の2倍、鶏肉の3倍近くの穀物が必要です)
食料自給「力」
最近では、「食料自給力」という表現も「食料農業農村基本計画」などでは使われています。
「耕作放棄地の回復、河川敷やゴルフ場の農場化などで穀物やイモ類などカロリ-の高いものを生産する、
さらには、一つの農地を表・裏2回使う二毛作を盛んにして生産量を増やすことで
どの程度の栄養水準を賄えるか」という安全保障上の計算です。
(2013年のFAOの調査では、一人一日当たりのカロリ-摂取量は、豪州が3768Kcal、
アメリカが3682Kcalに対し、日本は1800~2000Kcalとなっています)
このように、<食料自給率>の数字やレベルには、それぞれの意味や意義があるので、
そこを十分理解して将来の農業生産や食生活を考えていくことが大事です。
NAFUでは国内外の農業・食料を取り巻く自給率や経済の流れを
「食・農・ビジネス」の幅広い視点からとらえる力を身に付けていきます。