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【第66回】森の話、木の話 ― その1 創られた森

イギリスでは90%、ドイツでは70%、スイスでも90%の森が、18世紀までに一度は破壊されたといいます。
燃料や飼料、戦火に焼かれて姿を失なったのです。
現在の森の多くは、植林で新たに造られてきました。
ドイツ「シュバルツ・バルト」はその典型で、伐採跡地への植林作業は100年以上にわたります。
アメリカはまだ破壊のプロセスにあるそうです。
(安田喜憲・国際日本文化研究センター教授)

わが国における「森造り」「森保全」の例を紹介しましょう。

 

明治神宮の森

東京の代々木原(20万坪の練兵場跡)に、全くの人の力によって造られ、100年が経ちました。
明治天皇を記念して、1915年(大正4年)に着工し
全国から延べ10万人の労働力と10万本の苗木が提供されました。
その設計は、わが国初の林学博士・本多静六です。
大隈重信首相の指示「伊勢神宮や日光のような杉の森にせよ」をはね返し、
「関東ローム層や都会の環境に適合した<100年後に照葉樹の自然林>となる道を目指す」と強硬に主張、
①アカマツ、クロマツ⇒②スギ、ヒノキ⇒③クス、シイへの計画にしました。
また、落ち葉は肥料として全てが森林内に還元され
100年を経たいま、本多の意図は十分に達成されています。
樹種は250程度、17万本、どの季節でも十分に1日を過ごせる
楽しく、荘厳な森へ、とても人の手によって創られたとは思えない落ち着きを示しています。

 

皇居の森 北の丸公園・カツラ林

昭和天皇ゆかりの森「北の丸公園」内の小さなカツラ林は、
芽吹きのころと新緑のころが最も美しく爽やかで気持ちがよい。
ハート形の葉が繁る林の中を散策する人々も満足げな面持ちです。

 

東御苑・武蔵野の雑木林

意外なことに冬枯れの時期がよいと思います。
葉が落ちた木々の間から眺める上空は碧く、高い。
新緑から秋までの美しさも変わりはありません。
コナラ、クヌギ、クリ、ケヤキの林間には、
夏はヤマユリ、秋はハギなども咲き誇って、季節の移ろいを感じさせます。
「できるだけ、伐らずに、自然に」がご指示でした。

 

(追記)
晩秋に、センダンの実を拾い苗に育てています。
芽が出たら、胎内キャンパスで育てましょう。
10年もすると3m以上になり、美しい花がほのかな香りとともに咲きます。
並木にすれば樹冠はまるで雲霞のよう、和名は「オウチ」で「夏は来ぬ」の4番の歌詞に登場します。
なお、「栴檀は双葉より芳し」というのは、白檀との取り違えです。 


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