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【第107回】雪国のくらし‐北越雪譜から その4 行事や遊び

・鳥追櫓(とりおひやぐら) 

越後では、小正月(1月15日以降)に「鳥追い櫓」といって、昨年から取り除けておいた山のような雪の上に、高さ1丈(3m)にも及ぶ櫓を突き立てて階段も付け、頂上には、四隅にしめ縄を張り巡らした囲いをこしらえる。

むしろを敷きならべ、小童どもが飲み食いをする。

その時に歌われる「鳥追い歌」は、 “ あの鳥やどこから追ってきた?信濃の国から追ってきた。何をもって追ってきた?柴を束ねて追ってきた。柴の鳥も、川辺の鳥も立ちやがれホイ”とはやすのである。
これは、暖国にはない行事であろう。

 

・雪中の戯場(しばい) 

2、3月、まだ雪は消えず銀世界のころではあるが、みな「五穀豊熟、庶民腹鼓」の状態で幸せな春を迎えるとき、近隣も含めた地元の素人集が地芝居をする。出演者の家はもとより、親類縁者、朋友からも人を出し、雪の上を平らに踏み固め、舞台、花道、楽屋、桟敷などのすべてを集めた雪で作る。この戯場は、一晩たつと凍って鉄のようになる。

翌日の芝居では、桟敷のここかしこに毛氈が敷かれ、小さい娘たちは、削った氷をざるに入れて売る。寺への寄進、役者への贈り物もある。人気の「忠臣蔵」などが演じられると、大向こうからは「尾張や!」と掛け声がかかる。

 

・削氷(けづり・ひ) 

晩夏に三国峠を越えることがあった。“足元に鶯を聴くわれもまた谷渡りする越の山踏み”と詠んで、浅貝へ、三俣へ進む。湯沢へとたどる道筋には茶店が一軒あって、なにやら白い四角いものを売っている。トコロテンかと思えばそうではなく、雪の氷であった。これを注文すると、四角い雪(氷)をさらさらと削り、
豆の粉をかけて出してきた。その上に砂糖を振れば、歯も浮くばかりで、署さを忘れるほどの珍味である。

 

・三四月の雪 

春の末になると人の住むあたりの雪は、自然に消えるのを待たずに、家ごとに雪を取り捨てることをする。籠に入れたり、のこぎりで引き割って捨て、あるいは、日向に材木のように積み重ねることもある。
土をかけたり、灰をかければ、早く消える。

江戸から来た人が、当地の垣根を見て、「家は豊かなのに垣根が粗末で仮囲いのよう。どうしてだろうか」と訊く。「それは雪のせいなので、雪が来ると垣根を取り除くのであるから、むしろ軽くしておくのだ。いくらしっかり作っても、大雪で押しつぶされる」と答えた。

それまでは雪に取りこめられていた馬も3、4月の春の到来をよく知っていて、厩(うまや)を引き出せば、喜んで跳ね回る。童どもも同じで嬉しそうだ。桃、桜、花々もこのころから盛りになる。   


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