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【第109回】リスク・アナリシスに学ぶ

・リスク・アナリシス(risk analysis) 

食品や健康をはじめとしてあらゆるモノ・コトには「リスク」がつきもので、「リスク・ゼロ」は<ほとんどない>といってよいでしょう。リスクを「最小化する」科学的手法がリスク・アナリシスです。

リスクの評価(assessment)、管理(management)、そして、コミュニケーションを一定の組織が独立して、ときには重複・競争・協調的に実施していくのを明確にすることで「リスク軽減」を図ります。

この手法は、2001年の「牛肉BSE事件」の反省で本格的に導入され、「食品安全委員会」(リスク評価)の設置、「トレ-サビリティ」(リスク管理の手法としての生産~消費の追跡制度)も生まれました。
食品の分野では、今日まで、評価と管理はほぼ機能しているように見えますが、ここで弱いのはリスク・コミュニケ-ションの部分でしょう。この機能を評価組織でも管理組織でも行い、かつ、「マスコミを含めた多くの関係者にも担うことが求められる」としたため、最近はやや混乱した動きも目立ちます。

・マス・メデイアに期待するのは

政治や行政側の一方的な情報ではなく、国民が正しい情報に触れるよう事実を正確に伝えることが期待されており、ポピュリズムに押され、流されてはならないと考えます。
まして不十分な、誤った、あるいは意図的な情報による民意誘導などに加わるということは決してあってはならないのです。

   
「食の安心・安全財団」の唐木理事長は、こう言っています。
“国民の判断基準はテレビや新聞などを根拠とする。国民の防衛本能をあおってはならない。自粛警察、感染者への非難や差別行動も、この防衛本能から生まれる”(要約)
                
・ゆとりと遊びも必要 

リスク・コミュニケ-ションは、なかなかうまくいかないということに触れましたが、もっと根源には、健康・安全という基本問題なのにも関わらず、なにもかもが「ギリギリの競争社会で、リスク管理にもゆとりや遊びがない、したがって、備えもない」ことがあるのだと思うのです。

 

・競争と協調の時代  

昨年の10月7日、だいぶ遅れた「新入生へのオリエンテーション」において、次のようにお話ししました。

“今後は、「競争と協調」(competition and cooperation)が重要であると考えてください。ウイルスの例でお話します。ウイルスは、この地球上に1億種類あるといわれています。よいことも悪いこともしますが、これを完全に制圧できると考えてはいけません。競争がなければ進歩はなくて、協調がなければ平穏はない。協調・共生があって、世の中の発展があるのです”

先ほど述べた「リスク・アナリシス」ではないのですが、これからは、ウイルスの存在・行動を科学的に正しく評価し、「ウイルスを上手にmanageする」、それから、正確な情報を、相互的に伝えるコミュニケ-ションを心掛けることです。


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