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【第110回】アニマル・ウエルフェアと健全な畜産

最近、「アニマル・ウエルフェア」 という言葉を耳にします。
これからの「食」と「農」にとって大きな影響を与えそうに思えますので、簡単な解説を試みました。

日経新聞(7/31)では、「オリ・パラの選手村」で使われる食材の調達基準を巡り、「動物福祉」の観点で世界から厳しい視線が向けられている。
日本の基準が緩く動物福祉の遅れが浮き彫りになる可能性がある」と報じた。
動物愛護団体も、日本の鶏舎(茨城)の現場写真を公開、「おびえとストレスで多くの鶏が死んだ」と伝えました。

 

動物福祉(アニマル・ウエルフェア)の基本原則(5つの自由)

欧州では1960年代に始まって、いま、EUは家畜の飼育、輸送、食肉処理に至るまで具体的な方法を定めています。
日本も、いずれ同一歩調をとらなければ、国家目標である「輸出振興」にも大きな支障が生じそうです。
つまり、これまでの「輸入濃厚飼料依存型」畜産は行き詰まりそうです。
今後は、SDGsESG上の投資にも関わってくるでしょう。

(1)飢え・渇きからの自由 栄養の食物ときれいな水が与えられているか。
(2)不快からの自由 清潔な飼育環境と休息場所があるか。
(3)痛み・負傷・病気からの自由 健康管理をしてるか。
(4)恐怖・抑圧からの自由 精神的苦痛や不安の兆候を示していないか。
(5)本来の行動がとれる自由 習性に応じ群れか単独かで飼育されているか。

 

日本の実情

2019年の日本の養鶏では、「ケージ飼育」が94%と、英国の42%、ドイツの6%に比べてはるかに高い。
養豚では、「妊娠ストール」(60㎝×180㎝のオリ)でも、飼育が原則禁じられているEUに比べて遅れている。
また、酪農・肉牛でも、狭いスペースでの「舎飼い」に対し厳しい指摘があり、その背景には、牛の生理を軽視した濃厚飼料多投の短命飼育・高泌乳化があります。

 

消費者のし好、マーケットの意向を転換へ

消費者の感覚は、タマゴについては「安いもの」が底流にあり、「牛肉は、色が薄くサシが入ったものが高級品」、それ以外は市場の評価も低いのが実情です。
また、数年前、神奈川県の学校給食用の牛乳について「変な草のような臭い」とクレームがついて、保健所が乗り出し、結局、夏草の香りだったのです。
消費者(学童)が、濃厚飼料の牛乳に慣らされていたのでした。
消費者も流通関係者も、世界水準の本物の味へと頭を切り替えないと、狭い、貧しかった日本からの脱却はできません。

 

ジ・ビーフと西川牧場

ドイツ、スイスの「田園地帯」での旅では、乳肉兼用の「ブラウンスイス」が悠々と草を食む光景に出会いますが、これが自然な当たり前の畜産の姿といえます。
北海道の様似町に、広大な牧場と国有林の活用を通じて、「安全・安心な自然放牧牛飼育」を行っている「西川牧場」は、アンガスと黒毛和種のF1なのですが、健康で走り回るため、肉の色は濃く、格付けはB2かB3で、販売に苦戦しました。
それでも、自然分娩、自然飼育を貫き通し、シェフや消費者からの支持が増え、いま経営が軌道の乗ってきたといいます。
消費者や地域に支えられる農畜産業(CSA=Community Supported Agriculture)が、「農‐食の循環」の理想形です。


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