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【第124回】大きな循環、小さな循環 その3 モノの循環

ふたたび、「地域レベルでの小さな循環」に戻って、モノの循環(物質循環)についての優れた事例を紹介したい。

 

「里山資本主義」・森林はエネルギーの供給源

「モノの循環」の最初は、森林資源の循環から始めよう。

いま、日本の中国山地のあちこちで、森林資源の活用について新しい動きが見られる。
<植林→育林→伐採→製材→建築…残材は廃棄>という、これまでの一方通行のプロセスではなく、木質ペレットに固めて、地域内の家庭用、施設・工場用の燃料などエネルギー利用の循環に乗せて、地域資源である木の徹底利用を通じた経済の振興に役立てていくケースが広まっている。
NHK・TVで取り上げられたのは、「岡山県真庭市」である。
詳しくは「里山資本主義」(藻谷浩介・角川新書)を読んでほしい。

同じ本では、海外の優良事例として「林業は先端産業」という言葉で、オーストリアの「豊かな里山」ともいえる小さな村・ラムザウ村を紹介している。
高性能の機械・施設を用いた林業・林産業を行うとともに、副産物は木材のチップ、ペレットに加工する。
石油やガソリン流通のように地域内で利用する「地域循環システム」が出来上がっていて、電話一本で家庭のタンクに燃料ペレットを届ける タンク・ローリー車が走り、化石燃料に負けない。

 

武蔵野の落ち葉は生きている - 三富新田の循環農業

埼玉県の所沢から川越にかけて、武蔵野の平地林に拓かれた上富、中富、下富の農業地域が「三富新田(さんとめ・しんでん)」である。
徳川時代(1696年)に、当時の川越藩主・柳沢吉保が開拓し、分け与えた。(上富91、中富40、下富49の180屋敷)
ここでは、巧みに考えられた農法により「自然循環型の農業」が営まれている。
エッセンスをいえば、「関東ローム層に覆われた、やせた大地を肥沃な土地にするため、ナラ類などの落葉樹を多く取り入れた平地林(農用林)を作り、落ち葉の有機質を利用した<循環型農業>が300年以上も」である。(JAいるま野の要約)

もう少し具体的にいうと、土地面積は、1戸当たり約5ha(後楽園ドーム球場ぐらい)で、各農家の入り口は道路に面しており、屋敷林に囲まれた住居、耕地、そして、最も奥には平地林(通称ヤマ)が展開する。
農閑期には平地林で下草刈りをして、多量の落ち葉を苗床やたい肥に利用する、畑(水はあまり豊かでなく水田ではない)の作物は連作障害を避けるために輪作する、そして、この平地林は、やせた土地を、冬から春の強烈な風から畑を守る防風林、雨を通じた保水、建築資材、果樹の利用などの機能も果たしてきた。
5haの土地で循環できる「食・農と生活のシステム」が可能になっているのだ。(循環農業の図を参照)
市民参加の下、「落ち葉かき」や「たい肥作り」の指導もする。

 

明治神宮の森 - 100年後の姿を見据えた環境づくり

学長コラム第66回で取り上げているが、その文章を再録しておく。
ここで言いたいのは、設計者の本多静六がときの総理大臣に対しても、「100年後を考えれば、乾燥と煙害の東京では、常緑広葉樹でなければ森はできない」と主張して、「種子落下・自然更新による循環」をしっかりと認識・実行したことだ。
科学をベースとして対応方針を決める、とても大事である。

それでは、第66回で、大隈重信は「伊勢神宮や日光のごとき杉の森に」と命じた。
本多は、「土壌や環境に適合し100年後の照葉樹自然林へと、アカマツ・クロマツ→スギ・ヒノキ→クス・シイの変遷を辿らせ、落ち葉は肥料として森林内に還元する」と主張して自分の設計を強行、ここに今日の姿がある。


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