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【第123回】大きな循環、小さな循環 その2 ちょっと寄り道

「モノの循環」(物質循環)に入る前に、ちょっと寄り道をして、地球規模・世界規模での水循環にも触れておく。

ちなみに、「寄り道」という言葉が大好きで、水循環についての私の持論は、<早くまっすぐは止めて、ゆっくり寄り道に>である。

 

海洋大循環 

地球表面積の70%を占める海では、<数百年から1000年>という規模で海水が赤道付近と南北極の地域をまたいで循環している。これを「海洋大循環」といい、時間面でも、規模面でも、極めてダイナミックだ。

一つの流れは、北大西洋グリーンランド沖で、温度や風に起因して表層水が深層に沈み込み、長い旅を続けていく。もう一つの流れは、南極海を起点とするものだ。北大の大学院環境科学院がそれを画像に描いているので、こちらもご覧いただきたい。

 

ヘルコム(HelCom) 

バルト海の環境を守ろうとの国際組織である。

この海は「閉鎖性水域」、いうなれば、「水抜けが悪い」環境の水域で、海洋汚染などがあるとすぐには元の環境に戻らない。

そこで、関係する国々が連携して、一定の約束の下、即時出動・即時対応する協定を結んだ。加盟国は、デンマーク、エストニア、フィンランド、ドイツ、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ロシア、スウェーデン、EUだ。本部をヘルシンキに置き、「健全な海洋環境を維持するための対策と行動」を、Hel-Com Baltic- Sea Action Planとして協定している。(2007年)   

加盟各国の河川の近くに立地する工場などを監視し、汚染事故には、一斉に除去作業に出動をする、この話を聞いて感心した。国際会議でのスローガンは、確か、From River to The Seaだった。

 

日本の水利用 

日本の水の需要量は、約900億トンといわれている。そのうちの農業用は約600億トンと大口である。しかし、そこから先がちょっと違う。農業用に利用した水は、その2/3が田や畑から「地下水」や「河川への放流・還元」で再利用され、治水の面でも、一時貯留の形で水量の調整、緩和の機能を持っている。前号で述べた「雨水の有効利用」や「湧水復活」とも似ている。とくに、水田を有効利用し維持することは、利水、治水、そして、地域社会の維持発展につながっていく。

 

EUのFarm to Fork と 「みどりの食料システム戦略」 

EUは、気候変動対策と経済成長の両立を図る「グリーン・デイール戦略」を打ち出し、農業の分野では、2030年までに、全農地の25%を有機農業にするといった目標を掲げている。その中心となるのが「Farm to Fork(農場から食卓まで)戦略」である。

生産から消費までのフードシステムを公正で健康的で環境に配慮したものにすることを目指している。描かれている循環は、<持続的生産~持続的流通~持続的消費~フードロス発生防止>である。この戦略で期待されるのは、とくに、食の生産・供給と消費の距離を極力近づけること、化石燃料を使って資材も産物も長距離を輸送する広域の流通から「地域内での循環の重視」だ。
たとえば、都市周辺の家族農業者が生産したローカル・フードを地元のレストランや学校のカフェテラスへ直送、ファーマーズ・マーケット経由で消費者に供給、肥料も地元の食物残渣などを活用、一定の距離を経るものにはトレーサビリテイを義務づけて、起源(原産地など)を消費者に明示といった「システム化」で、食の循環を実現しようとしている。オーストリアでは、有機農業比率が面積で25%を超えている。


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