N-mag

【第127回】ウクライナ侵攻と国際食料需給 その3

第3回は、日本への影響と食料安全保障、それに、若干の小話である。

 

日本の小麦需給 

輸入は米加豪から488万トン、国内産は82万トンである。(輸入の比率は、米50%、加33%、豪17%‐2016~20年の平均値)ロシアからも18000トン輸入したことがあるが、現在は輸入をしていない。なお、備蓄は2か月以上保有している。

最近、小麦の政府売渡価格が17%引き上げられて、「ウクライナ侵攻が原因か」とも指摘されるが、これ以前から相場は、変動しながら急騰していたから、昨年夏の米加など北半球の不作が直接的原因である。

 

中期的な生産構造の変化 

EUでは、農地の約4%が「休耕」の状態であるという。農業国のフランスでは、休耕面積が35万haにも上るらしいので、それが耕作されれば数字的にはウクライナの減産はカバーできるとの説もあるが、やや綱渡りだし、環境悪化の問題もある。

 

アメリカのコーン・ベルト 

トウモロコシと大豆は、ほぼ同一の中西部で生産され、両者の価格関係が<大豆2・4 vs トウモロコシ1・0>を基準に生産のシフトが起こるとされている。一方、今回のロシアへの経済制裁が効果を上げると肥料原料が品不足と価格上昇になり、より少ない肥料で済む大豆へのシフトが生じるとの観測もある。

 

食料安全保障 

治に居て乱を忘れずという格言がある。国土面積が狭く、高度な食生活の下で輸入も多い日本では、長期の食料危機に耐える体制が十分なのかどうか、心細いと言わざるを得ない。「食料・農業・農村基本法」でも、食料安全保障のポイントは、①国内生産の確保、②輸入先の多角化(リスク分散)、③備蓄の整備(短期対策)と規定されている。この際、②と③だけではカバーできない「長期に耐える体制」の整備を本気で行わなければならない。この基本中の基本は、優れた社会資本である農地、とりわけ水田をよい状態に維持し、フルに使うことだと考える。そうして見ると5月の連休に田植えをする必要は、安全保障上からは逆行だ。コメの裏作に麦を作り、6月に収穫(麦秋)、耕地の利用率を2倍にする、国際価格で競争できるような支援をして輸出をし、いざの時は国内に回す、「米麦一貫体系」こそ自給力向上、「コメも麦も何でも作れる水田の整備」をしてフル活用、これこそ真の安全保障であろう。水田の維持・整備は、食料安全保障だけではなく、「地域社会の安定・維持発展」に貢献する。

 

【閑話休題】  シリーズ2

①小麦と大麦は別の作物 

日本では主食ないし主食に次ぐ穀物として、小麦・二条大麦・六条大麦・裸麦を一括して「四麦」などと称するが、そもそも小麦と大麦は別物で、「麦」がつくものの、ライムギ(ライ麦)、オーツ(燕麦)ははるかに遠い。英語名は、Wheat、Barley、Rye、Oatsと完全に別物である。

 

②世界を救った「ノーリン・テン」  

和洋の難点を克服し、低くて倒れにくい丈夫な「農林10号」という品種を1935年に開発したのが、東京帝大の稲塚権次郎である。これが第二次大戦後アメリカへ渡り、さらに改良が加えられ1960年世界最高の小麦になった。新しい麦は、「緑の革命」といわれ、食料危機を救ったのである。現在の世界の小麦の源は日本だった。

 

③歌に出てくる麦の風景 

安楽死などともいわれ、しばらく衰退が続いた日本の麦生産であるが、1960年ごろまでは、小麦、大麦ともに200万トン以上生産されていた時期もある、文部省唱歌「冬景色」に、“人は畑の麦を踏む”という一節があり、霜柱で麦の根が浮き上がって枯死するのを防ぐため、一家総出で、麦畑を歩む姿が歌い込まれている。 


関連記事