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【第128回】ウクライナ侵攻と国際食料需給 その4

この表題について、3回にわたり解説してきましたが、もう一つ大事な観点がありますので、最終回として第4話をまとめました。
テーマは、国際的商品である穀物、油糧種子の生産、用途・需要関係、その構造がどう変化して来たかという問題です。
なお、「食料事情のマクロ的変化と食料安全保障」については、「AFCフォーラム」(政策金融公庫)の最新号に、三井物産株式会社の佐野豊さんがわかりやすい解説を寄稿しています。

 

中国の大豆需要は30年前の100倍へ

1990年ころの中国では、大豆を年間で約100万トン輸入していた。
それが、いまは100倍の1億トンと、世界の大豆貿易量1億7000万トンの過半を占めている。
ちなみに、日本の大豆輸入量(2019年)は、約340万トンである。
(かつては「満州大豆」などといわれ、むしろ輸出商品だったぐらいだ)

大豆は、パーム油の次に大きな油糧原料だが、大豆を絞ると、油脂には2割程度、残りの8割は脱脂大豆(ミール)となって養豚用のエサになる。

中国の食生活が向上し、肉食が増えて来ると大豆の消費量も増加する。
今後の動向は、中国がどんな食生活になるか、目指すのかにかかっている。

他方、各国にはそれぞれ食生活の違いがあり、穀物そのもので食べる、油脂にして食べる、飼料にして畜産物を食べる程度で、穀物の一人当たり消費量が変わってくる。
1人当たりの穀物消費量は、アメリカではおそらく1000㎏、日本はその1/4の250㎏、中国は、すでに日本のレベルを超えアメリカの半分程度まで近づいているのではないだろうか。

地球の将来は、適正な食生活をとれるかどうか、それがカギである。

 

穀物等とエネルギーが競争関係へ

トウモロコシでは、飼料用、コーンシロップなどの糖化デンプン用、コーンスターチなどの食品用が主用途であったが、1990年代半ばからは、バイオエタノール用が増えてきている。燃料にE10とかE20 といった割合で混合を義務づけている。
この結果、アメリカでは、生産量の1/3、1億トンを超えるトウモロコシが燃料用に向けられている。 

カーボンニュートラルやロシアからの石油、天然ガス輸入の減少もあり、最近の報道では、インドが砂糖からエネルギーを生産する動きもある。

余談になるが、第二次世界大戦のころ、石油資源に恵まれていなかった日本でも、委任統治地だった南洋諸島で生産する砂糖を航空機燃料にすることを試みたがうまくいかなかったという事例もある。

 

インフレと食料価格の高騰

もう一つ大事な視点は、モノの需給関係で価格が上がるのではなく、世界経済がインフレの局面にあって、低金利でだぶついた資金(過剰流動性)が投機の場を求めて、穀物・油糧種子など食料の市場に流入してきていることである。
実際にも、アメリカの消費者物価は、3月の前年同月比8.5%と40年ぶりの上昇となり、中央銀行に当たるFRBは高金利政策などによる金融引き締めを図っている。

日本だけが低金利の金融緩和政策を続けることの是非が問われている。

 

カーボンニュートラル2050はどうなる

2030年の中間点、2050年の政策実現に向けて、COP26での合意はあったが、ウクライナ侵攻とロシアへの制裁から、石油、天然ガスが減少する中で、各国とも対応に苦慮することになった。
EUでも、Farm to Fork戦略スローダウンがささやかれ始めた。
再生可能なエネルギーのソーラー、風力、水力、グリーン水素・アンモニアが確たる地位を占めるのには一定の時間を要するので、再び、原子力発電活用の是非が議論されてくるだろう。

また、土地資源の制約が大きく、食料・エネルギー輸入の多い日本では、長期の食料・エネルギー危機に耐える体制の再構築が必要不可欠な時代になってきている。


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