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【第131回】食事と食器 – 食器の形、使い心地

「学長コラム」第8話で、次のようなことを書いた。

・・・ 人々の食事の仕方は、「手(右手)で食べる」、「スプ-ンで食べる」、「ナイフとフォ-クで食べる」、「箸(はし)で食べる」の4つに分類されます。さらに、「箸食」は食器を「置いたまま」と食器を「手に持つ」の2通りに分かれ、日本人・和食は、食器を手に持つタイプです。ごはん茶碗や汁椀を持つことで、食べ物を「感謝していただく(頂く)」形が自然にでき、「口中調味」が可能な「三角食い」や「稲妻食い」も容易になります。そうなれば、食器も<持ちやすく、食べやすい>形に進化します。・・・

 

ラーメンを引き立てる器の形 

6月4日の日経新聞に「ラーメンの器(ドンブリ)」の記事がある。5月初旬の「有田陶器市」には多くの人が訪れたが、なかでも有田焼専門商社の「まるぶん」が販売している「ラーメン鉢」は、人気のロングセラー(20年)である。容器側面から下部の高台(こうだい・器の足)にかけて作られているくびれに指がかかりやすくて、手の小さな人でも扱いやすい。縁の厚みは抑え、スープを飲むときの口当たりも考慮した。

客の一人は、「食べ物の満足感の2~3割は器で決まる」と語る。


(ラーメン鉢ー日経新聞に掲載)

(ケヤキの木椀ー秋岡さんによる)

 

汁椀(しるわん) 

木のある生活」を書いた秋岡芳夫さんは、つぎのように言っている。

・・・ 日本人の食生活にはユニークな歴史がある。食器を左手に持って食事をし続けた歴史だ。かゆ状の食物の多かった縄文時代から、まり状=おわん状の食器を片手に食事することが多かった。                              日本では匙(スプーン)が発達しなかった。おわんが、匙を必要としないほど具合よく作られていたからだろう。手に持ったおわんでかゆ状の食物もお汁も口に運べたから匙は無用だった。・・・

こうした食生活の長い歴史に育まれて、(木製の)おわんは、日本人の食事に合うように完璧な工夫がなされている。

 

汁椀の決まり寸法と機能 

さらに続く結論は、こうなっている。

① 汁椀の径の決まり寸法は、直径が114~120mmで、これは、徳川末期から守られている。120mmは男の手に全くしっくり、小ぶりな114mmのお椀は「女サイズ」で、女の手に手頃だ。

② 汁椀の形の成り立ちが完璧である。汁椀は手に持つ食器なので、外側の形は手に持ちやすく、内側は食べやすい形でなければならず、違う2つの形(機能)を1つの器に同居させている。

③ 均等肉厚に成型したプラスチック製などでは、食べやすければ持ちにくい、持ちやすければ食べにくいことになる。

つまり、木製ならば、「二兎を追う」ことも可能なのだ。

 

これらのことは男女差別ではなく、機能重視の目的で、「子ども茶碗」「女茶碗」という言い方もあり、いまでは調整が可能になっている椅子でも、本来は、作る段階で「座り心地」に合わせた工夫がなされていてしかるべきなのでしょう。

 かつて、岩手県の林業地域で、保護者が冬場に児童の学校給食用として地元の木材で「マイお椀」を作ったという話も聞いたことがある。これが本当の「食育」というものだろう。


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