学長コラム
【第18回】大学と社会の連携
大学と社会
かつて、大学は「白い巨塔」と称されました。
「白い巨塔」は、大学病院を舞台に、閉鎖的で封建的な独特の価値観と人間模様が描かれた山崎豊子の小説です。TVドラマでは田宮二郎や唐沢寿明が、主役の財前五郎を演じましたが、手段を選ばずに教授の座を目指す醜悪な姿や、権力闘争に明け暮れる中で癌に倒れる人生の無常さが良く描かれていました。
当時の大学や大学病院は、一般社会とは異なる独特の価値観をもった閉ざされた存在でした。
私は学生時代から数えると50年以上にわたって大学の中にいます。かつては小説と同じようなことはしばしばありましたが、今は大学の特殊性は薄れ、社会から隔絶した存在ではなくなりつつあります。
新潟食料農業大学は、地域密着型大学を目指してゼロから新たに作られた大学で、白い巨塔的なものを極力排除した大学です。
地域密着型大学として、これまでに地域とどのような連携をとってきたかいくつかの例を拾ってみます。
新潟食料農業大学の地域連携
本学は2018年に開学しましたが、その1年前に開学準備に入った若手の先生方が、地域の方々と酒を酌み交わすなどして地域との繋がりを作ってくれました。この地域では、人口減および高齢化が大きな問題で、地域の活性化が喫緊の課題でした。
先生方が地域の人々との橋渡しをし、学生たちはすぐに自分たちでサークル作って活動を始めました。棚田での有機米の生産やマコモタケの栽培です。有機米の生産では、学生たちは1枚の田を借り受けて、夏休みのほとんどすべての日を潰して雑草除去作業に追われながら収穫・販売まで行いました。これは、地域の人々と触れ合って楽しんで終わりといった地域連携ではありませんでした。「高校までは大人とまともに話したことはありませんでしたが、このプロジェクトを通して高齢者と真剣に話し、ときには叱られて大いに成長しました」と卒業時に述べた学生の言葉が印象に強く残っています。
また、学生たちは、胎内市、JA胎内市と連携して、さつまいもの品種べにはるかを「はるかなた」と名付けてブランド化しました。ブランドを確立するために、はるかなたの栽培法や加工方法、菓子への利用、販売方法など本学のアグリ、フード、ビジネスの3コースの様々な研究室で卒論としても取り組みました。このように様々な面から地域ブランド確立に向かって切り込んで行く姿勢は本学ならではです。
胎内市の北に接する村上市では日本最北端の茶が栽培されています。
これを使ってハーブティーを作ろうと考えた一期生の学生がいます。入学時から研究室に通って4年かけて、レモンバームを配合したティーバッグを完成させました。翌年には、次代の卒論生がこれのペットボトル化に成功し、就航したばかりのトキエアの機内で提供され、村上市のふるさと納税の返礼品にもなっています。この研究は代々受け継がれ、ほうじ茶、イチゴティーなどのティーバッグが作られています。
また、学生たちは自分たちの興味から、独自に水耕栽培や養蜂のサークルも立ち上げ、地域と連携して活発な活動をしています。
酒どころ新潟の大学として、本学は試験醸造免許を取得しています。
胎内市のししのくらの森から、酵母を分離、育種し、酒造メーカーと共同して清酒「ししのくらの森」を醸造しました。開学から4年で製品として仕上げたのは最速といえます。これには卒論として学生たちが関わっています。
他にも多くの地域連携活動が幅広い分野で行われています。
このように多様な活動ができたのは、地域の人々が学生や教員を温かく迎えてくれたからで、この土地に大学を開いて本当に良かったと思っています。
胎内市と村上市での活動を中心に書きましたが、新発田市、新潟市、阿賀野市、阿賀町、十日町市、津南町、糸魚川市、佐渡市、福島県いわき市などでも様々な活動を行っています。
地域には無尽蔵の資源が眠っています。大学は、まだまだ地域から新しいものを掘り起こせると感じています。本学は、掘り起こすだけではなく、商品化や販売に繋げて行きます。
大学は門戸を開いて地域の人々を待つのではなく、こちらから面白いものを探して地域に出て行く時代になっています。
2024年10月、にいがた2km食花マルシェ2024に出店
【写真説明】水耕栽培クラブのサンチュ・大葉、6次産業化クラブのかぼちゃや、村上茶ハーブティーのペットボトル・ティーバッグ、はるかなたさつまいもバター、胎内市産乾燥きくらげ、イタリア野菜などを販売しました。
地域連携への学生の参加
2024年に本学は、文部科学省の規定に基づいて外部認証評価を受けました。
学生へのヒアリングを終えた評価委員から、自分の大学では地域と連携するイベントやプロジェクトを大学が準備しても学生が集まらない、何故、新潟食料農業大学では学生が積極的に参加しているのかと質問されました。本学では開学時からイベントに学生が集まらないことはなく、その理由を考えたことはありませんでした。
大学の雰囲気がそうさせることもあるのでしょうが、入学直後から積極的に参加する学生も多いことから、現場を体験する中で学びたいという熱い気持ちの学生が入学してきていることが大きいと思います。熱い思いを持って何かをやりたい若者は沢山いるのです。
日本において、基礎分野や先端分野で研究を追求し、これらの分野で活躍する研究者を育成する大学は不可欠ですが、本学は、地域と密着して、地域とともに高め合い、研究・実業の両面において、社会の中核を支える骨太の人材を育成する大学として進化して行きたいと考えています。
(中井ゆたか)