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第20回 スマート農業

スマート農業という言葉をテレビニュースなどでも良く耳にするようになりました。
少し前はIT農業とよんでいました。スマート農業はロボット、AI(人工知能)やIT(情報技術)などを活用するもので、農作業の効率化、作業者の負担軽減、農業の経営管理の合理化を目指すものです。これによって、農業の⽣産性を向上させようというものです。
先週(2025年12月19日)政府が「人工知能基本計画」案を発表しました。AIの研究開発や利活用を国家戦略として推進しようというものです。この中に、スマート農業も含まれています。経済対策におけるAI施策は、「AIを使う」、「AIを創る」「AIの信頼性を高める」「AIと協働する」の4分野がありますが、令和7年度補正予算「AIを使う」の中に「スマート農業技術開発・供給加速化対策」89.7億円が計上されています。



ロボットや自動運転技術

ロボットトラクターや草刈機の⾃動運転がわかりやすい例です。
人に代わってロボットなどの機械に広い面積の農地を管理させるものです。日本の農業従事者の平均年齢は、67歳を超えています。高齢者の農作業を軽減するには有効な手段です。また、農家の規模を拡大する場合には人手不足が問題になりますが、これらの機械は少人数での耕作を可能にします。一方、農作業事故死亡者数は236人(令和5年)に上っており、その25%はトラクターなどの機械の転落・転倒によるものです。これらの事故を減らすためにも自動化は有効です。
ドローンは従来のリモコンヘリコプターに代わって、農薬散布に活用されていますが、ドローンや人工衛星を使って上空から耕地を管理する方法(センシング/モニタリング)もあります。
ドローンによって、作物の生育状況の観察、病害虫の発生状況調査、土壌の肥料成分の推測など色々なデータをとることができます。
以前、大学附属農場で経験したことですが、道から見たところ、畑のデントコーン(飼料用トウモロコシ)は何も問題なく生育していました。しかし、ドローンを飛ばして上空から見たところ、熊が入り込んで相当な量が食べられていました。デントコーンは2m以上の高さに育ちますので、熊は外から見えないように畑の中央部に入り込んで、どっかりと座り込んでその周りのトウモロコシを倒して実を食べるのです。これは、畑の横からではまったく見えません。熊による被害を食い止めるには、ドローンによる食害の早期発見が有効です。


画像データ取得用の小型ドローン



環境の制御や情報・データの管理

スマート農業技術は、田畑の水管理やハウスなどの環境制御に使われています。
耕作地の規模拡大を行う場合、まとまった場所に耕地を確保できないことがしばしばあり、耕地間の移動に車で1時間といった例もあります。このような遠隔地の水管理に役立ちます。
また、スマート農業技術は、家畜の生体管理にも使われています。
牛では人工授精が一般的ですが、人工授精を成功させるには授精のタイミングが重要です。発情開始後6〜24時間に行わなければなりません。数頭の牛を飼っているだけでしたら、目視で発情に気づけますが、頭数が多くなるとそれは難しいので、生体情報の自動取得が必要になります。
牛の排卵周期は平均21日です。一度人工授精のタイミングを逃すと、次の発情までの21日間、母牛に余計に餌を与えることになります。この間の餌代だけでも2万円の無駄になります。ギガファームとよばれる大規模経営では、経産牛を1,000頭以上飼育していますので、これだけで、2,000万円の損失です。発情を逃さずに検知するシステムによって無駄な経費を抑えることができます。大規模になればなるほど、授精に限らず、飼料給与や泌乳量、産子数など個体や群の管理のための情報の一元管理が重要になります。
さらに、スマート農業の技術は、栽培・収穫などの⽣産データ管理、経営データ管理など多くの分野で活用されつつあります。


大型ドローンを説明する松本辰也教授



果樹ドローン

新潟食料農業大学では、2023年に農林水産省および内閣府の大型研究に4課題が採択され、総額5億円を超す予算を得て研究が進められてきました。そのうちの3課題がスマート農業に関わるものです。その一つである松本辰也教授が中心となって進めている果樹ドローン研究について説明しましょう。
ドローンを使って未来の果樹栽培を拓き、省力化と高品質化を実現しようという研究です。
革新的な点が2つあります。
1つ目は、着果管理の省力化です。梨などの場合、受粉や摘果の作業をおこないます。これは、多くの実を着けるために受粉作業を行い、多くできすぎた実を減らす摘果作業を行うといった、多くの無駄を含む作業です。ドローンを使って、これらの作業の効率を高めようというものです。
摘果に関しては、このプロジェクトでは、予め花を摘み取ることによって、摘果作業を削減する方法を採用しています。
梨の花数をドローンで空中から撮影し、AI画像解析して、エリア毎の開花数を把握、これをスマホアプリと連携させて、スマホに表示される位置情報と合わせて花を摘み取って、その数を調整するといったものです。これによって、花を摘み取る作業効率を上げ、摘果作業時間を3割削減することに成功しています。
受粉に関しては、自家受粉で実がなる梨の新品種(自家和合性品種)を用いて圃場実験を行い、ドローンで送風して受粉を行いました。これによって確実に実をならせることができます。これまで手作業に頼っていた着果管理作業を6割削減することに成功しました。
松本教授は、自ら開発した自家和合性品種の梨を使って、ドローンでモニタリングして花数を調整し、減らした数の花にドローンで確実に受粉、着果させ、摘果作業を大幅に省力化するといった新たな技術を確立しつつあります。
2つ目は、ドローン撮影画像の解析によるデータ駆動型病害対策技術です。
リンゴ褐斑病やセイヨウナシごま色斑点病などでは、落葉が翌年の感染源になります。そのため、落ち葉の処理に関わる作業が大変です。そこで、葉が樹について生育中にドローンで画像解析して病害発生場所を特定し、自動運転によって農薬のスポット散布を行う方法を開発しつつあります。
これらの 技術を組み合わせることにより、省力的に高品質な果物を生産することができるようになります。スマート農業技術は、農家の経営を安定させ、生産料の確保や輸出拡大にも貢献します。



(中井ゆたか)


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