学長コラム
第26回 NAFU生き物図鑑
身の回りの生き物たち
私達は様々な生物に囲まれて暮らしています。
身近な生き物といえば、木、草、花、昆虫、鳥などでしょうか。
さらに、肉眼では見えませんが、細菌やウイルス、カビなどの生き物も多数います。
ヒトの皮膚の表面には、1平方センチあたり10万個(10⁵個)以上の細菌が付着していますし、土には1g中1億〜100億個(10⁸-10¹⁰個)の細菌が含まれています。堆肥には1g中10億〜1,000億個(10⁹-10¹¹個)の細菌が含まれています。
食品ですと、市販のプレーンヨーグルトでは、1g当たり1億〜10億個(10⁸-10⁹個)程度の乳酸菌が含まれています。機能性食品表示されているヨーグルトでは、これ以上の数が含まれているものあります。なお、ヨーグルトには国の基準があり、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)」によって、1ml(約1g)中の乳酸菌数は1,000万個(10⁷個)以上と定められています。他の食品では、ナチュラルチーズでは1,000万〜1億個(10⁷-10⁸個)の乳酸菌、納豆では1g当たり10億〜30億個の納豆菌が含まれています。
私達はものすごい数の微生物に取り囲まれ、かつ発酵食品などから微生物を摂りながら、多くの生き物とともに日々暮らしているのです。
チーズの熟成に効果のあるラクチカゼイバチルス パラカゼイ(Lacticaseibacillus paracasei )OUT0010株 (写真提供:中村正教授)
この細菌は、短い棒状の形態(桿菌)で、長さは1〜3μm(1μm は1/1000mm)です。
大学キャンパスの生き物たち
まず、大学キャンパスの周辺環境を見てみましょう。
本学には二つのキャンパスがありますが、とくに胎内キャンパスは豊かな自然の中にあります。校舎は新潟砂丘の北端に位置する海抜10m程度の丘の上にあります。この新潟砂丘は、村上市岩船港から角田山麓まで約70kmに及ぶ日本一の砂丘です。
キャンパスの正門前の県道を北西に1km進むと日本海、北東には胎内川が流れ、東側には広大な田畑が広がります。さらに東に進むと日本一小規模な山脈である櫛形山脈、その向こうには二王子岳、さらに飯豊連峰や朝日連峰が連なります。また、大学の東から東南にかけて、かつては胎内川や加治川が流れ込む広大な潟、紫雲寺潟がありました。この潟は江戸時代に大工事が行われて砂丘が切られて落堀川などの河川が作られて、排水、干拓されました。その結果、1,900haの広大な耕地と、42にも上る新たな村が生まれました。
胎内キャンパスは、山や海、胎内川、扇状地、干拓事業で作られた農地など多様で複雑な環境の中にあります。必然的にこの地の生物相は多様であると考えられます。
NAFU生き物図鑑
一昨年、本学の鈴木浩之先生から、胎内キャンパスに住む生き物の図鑑を作りたいとの提案がありました。
生物学の基礎は博物学にあると常々考えている私にとって、非常に嬉しい提案でした。
本学では、開学時より、学内の複数の教員が連携して研究を行うことを推奨しており、優れた提案には学長裁量研究費が配分されています。鈴木先生の提案は、他の教員に加えて職員をも巻き込んだもので、この研究費の課題として採択されました。
先生の専門は植物病理学、微生物生態学、菌学です。この分野の専門家の視点を持って、学内圃場の植物の病気および原因となる植物病原菌を主として調査を行いました。
この研究の優れた点は、ただ単に病原菌の分布を調べて図鑑を作るだけではなく、ここで得られた結果は、この地域に有機農業を導入する際の基礎データとして利用できることです。農林水産省は2021年に「みどりの食料システム戦略」を策定しましたが、この中に、2050年までに日本の耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を 25%(100 万ha)に拡大することを目指すと記されています。
有機農業に移行した場合に問題になるのは、化学農薬の使用停止による病虫害の発生です。これによる減収率は多くの作物で50%を超えるとされています。
有機農業を行うためには、その地域にどのような病害が存在するのかを明らかにし、予め病虫害対策を立てる必要があります。
本学の圃場では慣行栽培区においても病害防除を目的とした農薬散布は行われておらず、圃場以外でもほとんど化学農薬が使用されていません。このような場所の病害発生を明確にすることは、新潟の下越地方において有機農業を導入する際の基盤的な知見となります。下越地域で有機農業を行った場合の植物病害発生の危険性を知るための基礎データになるわけです。
卒論研究として1名の学生が担当し、植物病害の発生、分布、原因となる植物病原菌の解析を行いました。キャンパス内を歩いて回って多くの植物を観察し、病徴を探し出し、切片を切り出して培地上で病原体を培養し、純粋培養しました。絶対寄生菌など培養できないものは乾燥標本化を行いました。また、DNA抽出を行って、遺伝子をPCR増幅し、塩基配列を決定して病原体を種レベルで同定しました。このような地道な研究を行った結果が、大学ホームページ上にアップされています。
是非、ご覧になってください。
https://nafu.ac.jp/about/organism/
このページに入ると前書きに続いて、「生き物を探す」があります。
このページの左から2番目のトウモロコシ圃場をクリックしてみてください。
「病名:トウモロコシごま葉枯病菌」とあり、罹病したトウモロコシの葉や病原体の写真とともに、宿主名、病原菌名の学名、発生場所、時期、病徴、形態が記載されています。学術図鑑の体裁です。
この図鑑の良さは、これらの後にある「まめちしき」です。
ここには、調査研究に当たった学生のコメントが書かれています。初めて病原菌の分離や分析に関わった学生の素直な感想がダイレクトに伝わってきます。これまでに見たことがない生き物を目の当たりにした時の感動や興奮は生物学研究のスタート地点です。研究にあたった学生の生の声が記されていることは、一般の学術図鑑には見られない素晴らしい点です。
今後は、作物・果樹・木本・草本・昆虫・動物・鳥などの解説文がこの図鑑に付け加えられることになっています。
また、このキャンパスの研究室に保存されている、乳酸菌、酵母、メタン細菌、堆肥の細菌などもアップされることになりそうです。
NAFU生き物図鑑がさらに充実するのが楽しみです。
(中井ゆたか)