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塩と汗

「塩の道」千国街道(ちくにかいどう)の塩蔵。塩は、古代から海と山を繋ぐ重要な交易物資でした。

今年の新潟の夏は、ここ数年の中ではそれほどではありませんでしたが、暑いことには変わりありませんでした。子供の頃、汗をかいた時は塩を摂った方がよいといわれて、スイカに塩をかけて食べていたことを思い出します。
先日、塩の道を訪れて、古代から続く人の塩への思いを強く感じました。古くから人は塩を欲していたわけですが、その訳を改めて考えてみることにしました。

汗によって失われる食塩量

さて、人はどのくらい汗をかくのでしょうか。
登山ガイドによると、5時間の登山の行動中の発汗量は、体重70kgの人ですと1750mlと記されています。給水量はその7〜8割でよいということで、山に持参する水は1.4L程度が推奨されています。
他の文献を調べますと、発汗量は、スポーツの種類や運動強度、気温など多くの条件によって変化すると、当然のことが様々書かれています。
いくら文献を読んでも実感がわかないので、自分で試すことにしました。
試験対象は成年男性1人(私のことですが)で反復試験なし。論文の査読には耐えられない試験設計ですが、まずはやってみることにしました。
早速ジムに行き、体重測定後、エアロバイクに座りました。エアロバイクは、椅子にもたれるように座ってペダルを回すタイプのトレーニングマシンです。室温は24.9℃、湿度は62%で、湿度は若干高めですが快適な室内環境です。
マシンに座って、60-65ワットになるように負荷をかけて、回転数60-70rpmでペダルを回しました。
この負荷ですと、息が上がらず楽なペースです。とはいえ、30分をすぎると顔には拭わなければならない程度の発汗がありました。
1時間休まずにこぎ続けて、全身の汗をよく拭ってから体重測定しました。
体重は300g減っていました。
呼気による水分減少もありますが、それを無視すると、300mlの汗をかいたことになります。汗の塩分濃度は0.3%程度ですので、0.9gの食塩が失われたことになります。

軽い運動時に食塩を補う必要はあるのか


自転車ロードレースの補給スポット。インカレのように距離160km、走行時間4時間半を超えるような真夏のレースでは、水分と食料の補給がなければ走りきれません。補給食や飲料を受け取れなかったことにより、両足が痙攣してリタイアなどといったことも起こります。なお、クリテリウムなど30分程度のレースでは無補給のこともあります。

この実験をサイクリングにあてはめてみました。
60wの力を出すと、ロードバイクでは時速20km程度が出ますので、今回の実験は楽なサイクリングのレベルです。
この速度で5時間100km走ったとすると、4.5gの食塩を汗から失うと計算されます。サイクリング途中に、タブレットなどで食塩補給する人もいますが、この量は、実は大した量ではありません。
たとえば、ラーメンでは、スープまで飲み干すと5〜8gの食塩が含まれています。かけそばでも4g程度の食塩が含まれています。したがって、昼食にラーメンかかけそばを1杯たべるだけで、失った食塩の量を取り戻すことができます。
ここで、汗で失った分の食塩を補給する必要があるのかが気になりましたので、さらに調べてみました。

食塩の摂取基準

「食事摂取基準」が、厚生労働省によって発表されています。これは、健康増進法に定められたもので、5年ごとに科学的根拠に基づいて改定されています。食事摂取基準の各論としてミネラルに関する記載があり、ナトリウムに関して詳細な記載があります。
ナトリウムの多くは食塩(塩化ナトリウム)から摂取されますので、食塩に置き換えて、この基準を読み解いてみます。
1日に食塩はどのくらい摂れば良いのでしょうか。
食塩の必要量としては、WHOガイドラインでは、0.5〜1.3gとかなり低い値ですが、日本人の食事摂取基準(2025年版)では、個人間変動を考慮して、1.5gとしています。
1日当たり1.5gの食塩を摂れば、食塩欠乏にはならず、健康を維持して行けるということです。この量はかなりわずかで、味噌汁1杯の食塩量が2gですので、これよりも少ない量です。日本で普通の暮らしをしていれば、食塩が欠乏することはありません。
一方、日本人の1日当たり食塩摂取量は、1950年代は25.1g、2010年代は12.6gと推定されており、国民健康・栄養調査に記載された食塩摂取量は、2000年が12.3g、2018年が9.7gです。
日本では、食塩の取り過ぎが問題にされており、食事摂取基準の高血圧予防のための目標値は、6gとしています。
WHOのガイドラインでは5g未満を強く推奨していますが、日本では、摂取量5g未満の人は極めて希であり、大幅に食生活を変えない限り実現は難しいため、6gにしています。いずれにせよ、必要量の1.5gと比べて高い値であり、多くの人が必要以上の食塩を摂っているといえます。
先ほどのサイクリング時の食塩摂取を考えると、通常の食事で10g程度の食塩を摂っていますので、サイクリングで5gの食塩を失っても、1日当たりの食塩必要量を下回ることはなく、特別な補給は不要と言えます。したがって、無理にラーメンのスープを飲み干す必要

ここでは、軽度の運動を続けた時の食塩の出納(失う量と補給する量)について述べましたが、炎天下でのスポーツなど過激な運動の場合は、注意が必要です。
汗と共に食塩が体内から急激に失われると、低ナトリウム血症が引き起こされます。
低ナトリウム血症では、筋肉の痙攣(けいれん)から昏迷、昏睡が起こり、死に至ることもあります。食塩は、体液の浸透圧を保つために必要不可欠な物質でもあり、急激な発汗や酷い下痢などの場合、外部から補給する必要があります。そのような場合、点滴が行われますが、症状に応じて、3%食塩水や、0.9%の食塩を含む生理食塩水が用いられます。

軽い運動であれば食塩をあえて摂る必要はありませんが、猛暑や強度の運動の場合、スポーツ飲料を飲んだり、タブレットを舐めたりして、塩分を取る必要があることを十分に意識しておく必要があります。

(中井ゆたか)


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