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鳥インフルエンザ

ブラマ種のニワトリ。インドが原産で欧米で改良されたとされる世界最大級の肉用鶏。豊かな脚毛が特徴です。今は愛玩用に飼育されており、新潟県南魚沼市の松之山温泉ナステビュウ湯の山では、名物店長を務めています。


卵価と鳥インフルエンザ


日本は卵を生食する珍しい国です。
新鮮さを求めますので、ほとんどが国産です。鶏卵の自給率はここ10年、96-97%です。
さて、このように農産物の高い自給率は誇るべきことなのでしょうか。
実は、そうとも言い切れません。
豚肉は、自給率50%程度です。国内生産が落ちた場合は輸入を増やすことによって供給量を確保しています。昨年末からアフリカ豚熱の発生によりスペインからの豚肉輸入が停止していますが、輸入先を変えたり、国内生産を増やすことで量を確保しています。自給率が中程度であることにより、柔軟な対応ができ、価格変動を抑えることができます。100%近い自給率は、むしろ危険をはらむことにもなります。
鶏卵は国内での生産が減少した場合、輸入にシフトすることができませんので、価格高騰に直結します。通常でも、需要が増すクリスマスや正月には価格は上昇しますし、伝染病などで産卵鶏の数が減れば、価格は上昇します。
とくに、鳥インフルエンザは家畜伝染病予防法で定められた家畜伝染病であり、発生時には感染が疑われる鶏群すべてを殺処分することが定められており、生産は大幅に落ち込み、価格の急騰につながります。
2023年に鳥インフルエンザの発生により、大学近隣の養鶏場で68万羽が殺処分されたことがありました。これは大きな数ですが、日本には約1億3千万羽の採卵鶏成鶏雌(卵を産む鶏)が飼われていましたので、68万羽は全飼養羽数の0.5%にすぎません。1つの養鶏場での発生は、鶏卵価格の高騰に直結するわけではありません。ただ、この時は、鳥インフルエンザが全国に広がって、1,771万羽が殺処分されました。これは全国の採卵鶏の13%に当り、卵価は高騰しました。近年、このように鳥インフルエンザは鶏卵価格の決定要因になっています。


鳥インフルエンザの名称


鳥インフルエンザは、1878年に北イタリアで発生したニワトリの伝染病で、fowl plague(家禽ペスト)と呼ばれていました。
ヒトではペストは恐ろしい伝染病です。黒死病とも呼ばれ、14世紀のヨーロッパでは人口の半分近くが死亡したとされます。ニワトリがばたばたと死亡したため家禽ペストと名付けられたのです。
その後、家禽ペストの病原体はウイルスであることが明らかにされました。
このことから、1981年に開催された国際家禽インフルエンザシンポジウムで正式名称を鳥インフルエンザavian infuenzaとすることになりました。
なお、ヒトのペストは細菌(Yersinia pestis)によるもので、鳥インフルエンザはウイルスによるものですので、原因微生物は異なり、まったく別の病気です。
日本では、畜産産業上重要な疾病の予防および防除を目的として家畜伝染病予防法が定められていますが、その中で「家禽ペスト」の名称が使われていました。上記のシンポジウムでの名称改定から遅れること22年、2003年に法改正され、家禽ペストは「鳥インフルエンザ」に名称変更されました。
鳥インフルエンザウイルスには多くの型があり、亜型とよばれて分類されています。家畜伝染病予防法では、亜型に関わらず病原性の高い型によるものを高病原性鳥インフルエンザ、病原性が低いがH5またはH7亜型の株によるものを低病原性鳥インフルエンザとしています。両者は法定伝染病に指定されています。H5またはH7亜型以外によるものを鳥インフルエンザとして届出伝染病に指定されています。
ここでは「法定伝染病」と書きましたが、法律上は「家畜伝染病」と記載されています。一般名詞の「家畜伝染病」と区別するために、法で定められた家畜伝染病の意味で「法定伝染病」とよばれています。


鳥インフルエンザの病原性


さて、鳥インフルエンザはどのような病気でしょう。
ニワトリが、高病原性鳥インフルエンザに感染すると元気喪失、咳、鼻水を示すこともありますが、急性例では、症状を現さずに急死(感染後3〜5日)します。
伝搬力が強いことも特徴です。そのために、感染鶏が発見された場合、群全体を殺処分して、外部への伝搬を抑える方法がとられます。
私が鳥インフルエンザの脅威を知ったのは、米国ペンシルベニア州での1983年の大発生に関するシンポジウムでした。大量のニワトリの死体をブルドーザーで土中に埋め込むスライドが示され、愕然としたことを思い出します。この時は対岸の火事を眺める感覚でしたが、日本に入ったら大変なことになると思いました。
野鳥への病原性は鳥の種類によって異なります。
H5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染実験では、ハクチョウやコサギは100%死亡、ハイイロガンは100%発症、オシドリは33%発症し不顕性感染が66%、マガモやコガモは100%不顕性感染と報告されています。スズメは死亡率が高く、ハトは感染しにくいとされます。
不顕性感染では、感染が成立していながら臨床的な症状を示しません。このような不顕性感染した鳥種や個体がウイルスを運んでいると考えられています。


10月29日の瓢湖。10月になると新潟県阿賀野市にある瓢湖には多数のハクチョウとカモ類が飛来します。瓢湖はラムサール条約登録湿地で、「水原のハクチョウ渡来地」として国の天然記念物にも指定されています。1日3回の餌付け時には、間近で多数の水鳥を見ることができます。


鳥インフルエンザはどのようにして養鶏場に侵入するのか


鳥インフルエンザの侵入経路は確定されない場合がほとんどですが、感染した渡り鳥、野鳥、ネズミや、ウイルスに汚染された粉塵や羽毛などが侵入に関わるとされています。
想定されているストーリーは、渡り鳥が国内にウイルスを持ち込み、糞などを介して野鳥に広がると同時に、感染個体を採食したタカなどの猛禽類やカラスやネズミなどに広がり、環境がウイルスに汚染された状態になって、その環境からウイルスが養鶏場に持ち込まれるといったものです。
2024〜25年シーズンに死亡または衰弱した野鳥個体の高病原性鳥インフルエンザウイルス保有状況調査が行われていますが、オオハクチョウでは15/100(100個体を調査して15個体から本ウイルス検出)、オシドリでは1/14、マガモでは1/91、コガモでは2/9、タンチョウでは2/45、マナヅルでは5/10、ナベヅルでは59/94と、野生の鳥に広く高病原性鳥インフルエンザが蔓延していることが明らかにされています。
https://www.env.go.jp/content/000401155.pdf

養鶏場の従業員は汚染された粉塵や羽毛などを持ち込まないように気をつけていますが、人を介して養鶏場に持ち込まれる可能性がもっとも高いといわれています。また、飼料運搬車は1日に数カ所の養鶏場を回りますので、運搬車を介した伝搬も否定できません。養鶏場に出入りする人や車両が、野鳥に直接もしくは間接的に接触するのを避けることや、入場時の消毒など徹底的な衛生管理が重要です。
日本で鳥インフルエンザが79年ぶりに発生した2004年当時には、渡り鳥が鶏舎に侵入して感染が広がるとのコメントもありましたが、多くの養鶏場はウインドレスで、外部の鳥が侵入する可能性は低く、野鳥からニワトリへ直接に感染することはほとんどないでしょう。


鳥インフルエンザはヒトに感染するのか?


日本では、ヒトが鳥インフルエンザに感染した例はありません。
海外での感染例では、感染した鳥との濃厚な接触が原因です。感染した鳥の羽や糞など粉末状のものを吸い込んで、大量のウイルスが入ることによって感染したとされています。生きたニワトリを市場で買ってきて家でと殺して調理する国では、高い感染の危険にさらされますが、日本では、感染したニワトリの摘発と処分は養鶏場の敷地内で早期に適切に行われておりますし、汚染された鶏肉や鶏卵が市場に出回ることもほとんどありません。日本では、一般消費者が感染することは、まずないと考えて良いでしょう。
ただし、養鶏場の病鳥や、とくに死んだり弱ったりしている野鳥を見かけた時、触れないよう気をつけることは大切です。


(中井ゆたか)


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