第21回 日本酒を造る
一昨年(2024年12月5日)、日本の伝統的な酒造りがユネスコ無形文化遺産に登録されました。対象は、日本酒(清酒)に加え、焼酎、泡盛、みりんなど麹を使った日本独特の酒造り全般です。
ユネスコ遺産になったとはいえ、近年、日本酒人気は衰えているとよくいわれます。実際、清酒の生産量(課税数量)は昭和48年をピークとして減少しています。しかし、清酒のタイプ別に見ると、普通酒は減少傾向にあるものの、純米酒や純米吟醸酒は増加傾向にあります。品質の良い日本酒はむしろよく飲まれるようになっているのです。美味しい酒を少量飲む形にシフトしているということです。
日本には清酒の製造場(いわゆる酒蔵)は、1,117場(令和7年国税庁発表)あります。
新潟県は酒どころといわれるだけあって、蔵数は90に上ります。実際に製造を行っているのは78場とされています。この数は長野県(66場)、兵庫県(58場)、福島県(52場)、山形県(45場)を押さえてトップです。ただし、製造量(20度換算の製成数量)では、新潟県は27,689kLで、兵庫県(81,102kL)、京都府(51,087kL)に次ぐ3位です。これは、新潟県には売上高100億円以上の会社がないことが影響しています。兵庫県には3社(白鶴酒造(株)、大関(株)、日本盛(株))、京都には1社(月桂冠(株))があります。
酒類製造免許
酒類製造免許は略して酒造免許とよばれることがあります。
日本では、酒類、酒母、もろみを製造する場合、この免許を受けなければなりません。
酒類に関しては、品目によって、清酒、果実酒、ビール、ウイスキー、ブランディー、発泡酒など17種に細分されています。酒蔵は清酒醸造の免許を持っている製造場です。
また、販売目的を持たない学校などで酒類を製造する場合に対するものとして、試験醸造免許があります。こちらも品目毎に免許を取る必要があります。
新潟食料農業大学は2021年9月14日に「清酒」、2023年9月22日に「果実酒」と「その他の醸造酒」の試験醸造免許を取得しています。この時は、書類提出後に税務署担当者が来学し、施設や備品の査察や担当者に対するヒアリングが行われ、試験醸造であっても免許取得審査はかなり厳格だということを痛感しました。
なお、「果実酒」はワインやシードルなどです。「その他の醸造酒」の定義は、穀類、糖類などを原料として発酵させたもので、清酒の発酵過程でエディブルフラワーや山椒など他の成分を加えたものなどが含まれます。
清酒を作る微生物たち
清酒造りには2種類の微生物が使われます。
麹菌と酵母です。米のデンプンは麹菌によってブドウ糖などに分解され(糖化)、さらに酵母によってアルコールが作られます(発酵)。糖化と発酵は連続する別の反応ですが、清酒製造ではこれらの反応が同時に行われるため並行複発酵とよばれます。並行複発酵によって、清酒のアルコール割合は20%近くまで高められ、世界の醸造酒の中でもっとも高いアルコール度数です。日本では古来より、世界最高水準の発酵技術を持っていたといえます。
酵母はアルコールだけではなく、カプロン酸エチルや酢酸イソアミルなどの香り成分を作ります。これらは、リンゴやバナナのようなフルーティーな香りです。
1970年代、私が学生の頃の二級酒などの安酒にはむっとする臭さがあり、とくに二日酔いの朝に嗅いだ時には二度と飲むまいと思ったものです。しかし、助教授になって仙台に戻った頃には、東北の地酒は新世代を迎え、フルーティーな馥郁たる香りを醸し出すものが増えて、すっかり虜になりました。様々な酒蔵の酒を試したことを思い出します。香り成分は清酒の美味しさに欠かせません。
大学での清酒の製造
新潟食料農業大学では2018年の開学時から清酒製造に向けた研究を始め、2021年に試験醸造免許を得て、それらの研究が加速しました。
清酒の香りや味わいに密接に関係する酵母に注目して、本学の3人の先生(渡邉剛志教授、小熊哲哉教授、栗林喬助手)が、野生酵母の探索を行いました。胎内キャンパス所在地の胎内市の名所から酵母を分離することにし、日本海夕日ラインの「はまなすの丘」に自生するハマナスや、ブナの巨大異形樹がある神秘の森「ししのくらの森」から採取しました。研究室に持ち帰って、学生とともに酵母を培養し、その中で、アルコール産生能力が高く、フルーティーな香りを醸し出す酵母を育種しました。これらは、「はまなすの丘酵母」と「ししのくらの森酵母」と名付けられ、商標登録されています。
ししのくらの森酵母、胎内市産酒米の五百万石、胎内市の水を使用して、今代司酒造株式会社が醸造し、胎内市産原料にこだわった純米酒「ししのくらの森」が作られました。瓶詰めを急いでもらい、本学第1期生の卒業式の記念品とすることができました。実用化研究に力を入れる本学としては、開学後わずか4年で清酒の製品化にこぎ着けることができ、大変嬉しく思いました。
また、五泉市の村松公園内の希少品種「穂咲彼岸八重桜」からも酵母を分離しています。こちらは「村松さくら酵母」と名付けられ、金鵄盃酒造株式会社がこの酵母を使って、純米酒「MURAMATSU-Sakura」を醸造しています。
「ししのくらの森」と「MURAMATSU-Sakura」は、それぞれ、胎内市および五泉市のふるさと納税の品になっていますので、興味ある方は是非お試し下さい。
(中井ゆたか)