研究紹介
新潟県内の清酒製造場に残る「蔵付き酵母」の多様性と醸造特性を解明 ― 国際学術誌 Mycoscience に研究成果を発表 ―
【研究の概要】
清酒の醸造において酵母は、アルコール発酵だけでなく、酒の香味形成にも大きく関わる重要な要素です。現在の日本酒製造では「きょうかい酵母」が広く使用されていますが、近代化以前には、各酒造場に固有の「蔵付き酵母」が酒造りを担っていました。新潟県には、戦国時代や江戸時代から清酒醸造を続けてきた酒蔵が数多く現存しており、これらの酒蔵では、かつて蔵付き酵母が酒質形成に寄与していた可能性があります。一方で、1940年代以降、きょうかい7号系清酒酵母の普及により、多くの酒蔵で蔵付き酵母は淘汰されてきました。
このような背景のもと、本学ビジティングフェローの栗林 喬先生(新潟県醸造試験場 専門研究員)を中心とする研究グループは、新潟県内の酒造場から既存清酒酵母とは異なる発酵挙動を示す「蔵付き酵母」を分離し、遺伝学的特徴および醸造特性の解析を行いました。その結果、蔵付き酵母は既存清酒酵母とは異なる遺伝学的特徴を有し、さらに酒蔵ごとに多様な醸造特性を示すことが明らかとなりました。これら「蔵付き酵母」には、きょうかい酵母と同等の清酒製造が可能な酵母や、低アルコール清酒の製造に適した酵母も確認されました。実際に、一部の酒造場では、本研究により分離された「蔵付き酵母」を用いて清酒製品が製造されています。
本研究により、新潟県内の清酒製造場には、現在も多様な「蔵付き酵母」が生息していることが示されるとともに、「蔵付き酵母」が酒蔵ごとの酒質形成要因となり得ることが示唆されます。現在、新潟食料農業大学および新潟県醸造試験場では、「蔵付き酵母」を活用した次世代新潟清酒酵母の開発と、清酒酵母の進化や地域性とその変遷の解明に向けた研究を進めています。
本研究はJSPS科研費(23K11589、研究課題名:蔵付き酵母の全ゲノム解析から探る清酒銘醸地の産地特性)の支援を受けて実施されました。
【研究成果の公表等】
本研究成果は2026年3月20日に一般社団法人日本菌学会発行のMycoscienceへ掲載されました。
論文:Kuribayashi, T., Tanaka, J., Sugawara, M., Sato, K., Nabekura, Y., Joh, T., & Aoki, T. (2026). Fermentation characteristics and industrial potential of kuratsuki sake yeasts isolated from Niigata Prefecture, Japan. Mycoscience, 67(2), 49-55.
DOI: https://doi.org/10.47371/mycosci.2025.12.004
【関連リンク】
本研究成果の一部は、基礎から応用まで幅広い酵母研究者が一堂に会し、最新の研究成果について議論する第25回酵母合同シンポジウム(会期:2025年 10月30日・10月31日)において、口頭発表されました。
http://www.yeast.umin.jp/yeast-symposium25/index.html
講演タイトル:新潟県内の蔵付き清酒酵母の醸造特性と清酒製造への実用化 -「蔵付き酵母」の醸造特性から日本酒の個性を探る-
講演者:栗林 喬