授業紹介
【授業紹介】 「くちビルディング」でプレイフルケア!<第6回食嗜好科学>
5月14日(火)の食嗜好科学の授業では、一般社団法人グッドネイバーズカンパニーの代表理事で救急医療の医師でもある 清水愛子様から録画授業とオンラインでつないでお迎えし、くちビルディング選手権の活動内容と今後の展望についてお話を伺いました。
清水先生がSNSでカレンダー形式の「まいにちくちビル」の冊子を学校の授業などで使う方に差し上げますという案内を見つけたフードコース「食嗜好科学」担当の横向慶子教授がアクセスし、14年前に博報堂とキリンホールディングスで一緒に未来洞察の仕事をしたご縁で久しぶりにつながり、3年生の食を学ぶ約54名を対象にご講演をお願いしたところ快諾いただけました。
最初にキャリアの話、一般社団法人グッドネイバーズカンパニーを立ち上げ、くちビルディング選手権の活動内容と多岐にわたり話してくださいました。
慶応義塾大学を卒業後、携帯電話のNOKIAに入社され、未来の携帯の姿や海外市場の分析などを行っておりました。後に博報堂に2008年に転職し、イノベーションラボで未来洞察をエスノグラフィの手法で行っていた時、東日本大震災をきっかけに医学部に学士入学し、今は救急医療の専門医の資格も経て、在学中に看護師や医療従事者の方々と一般社団法人グッドネイバーズカンパニーを立ち上げたというキャリアの持ち主です。
事前にお送りいただいたカレンダー形式の「まいにちくちビル」の冊子を全員に配布し、65分の講義と20分間の質疑応答を行いました。
第3回の食嗜好科学の授業では、嚥下障害と介護用加工食品について学び、高齢社会での誤嚥性肺炎の問題や食品業界の硬さの段階でマークがあるユニバーサルデザインフードに関しての取り組みを学んだ後でした。
清水先生から『まいにちくちビル』について、「コロナ以前はお年寄りから子供まで対面で参加するスポーツイベントだった「くちビルディング選手権」ですが、コロナ渦で、緊急事態宣言が発令され実施できなくなってしまったので、その代わりに自宅でできるプログラムを作ろうと『まいにち、くちビル』が生まれました。当時は、全員が医療従事者として働き、コロナ対応をする傍ら、4か月という短い期間で全力疾走しながら制作しました。くちビルディングは口腔機能訓練をスポーツ競技に変換することで楽しく参加でき、誰もが平等にアスリートとして競い合え、ルールを設けて本気になり、記録を目指して何度でも参加したくなる仕組みになっています。背景に医療的なメッセージをひそめて、機会を見据えてアプローチできるようにしておく。そんな活動を通してフレイル(虚弱)の期間を短くできるだけ健康寿命(元気で生き生きと生活できる期間)を伸ばすことを目指しました。」とお話しいただきました。
最後には、学生の皆さんにまとめとして「食べることは人間の根源的な機能である」「フレイルという考え方に3つの要素と3つの予防策がある」「参加すること、楽しむことに健康的に人生を生きるための重要な要素が詰まっている」「オーラルフレイル予防として『まいにち、くちびる』がある」「キャリアは途中でいろいろ変わったって良い!」とエールを送っていただきました。
【授業中のQ&Aの様子】
学生:「私の祖父は、大腸の病気によって刺激物や消化に悪い食べ物を食べられません。そういった人が食事を楽しむために、どのような工夫ができるでしょうか?」
清水先生:「食べられないものが増えてしまうのは仕方がないこと。新しく楽しく食べられるものを探すというのが一つの手段。一緒に探してみるのがいいかもしれません。また、好きなものを何とか食べられるように改良するのも一つの手です。例えば、炭酸飲料が好きだったが飲めなくなってしまった人に、コーラに炭酸のあの感覚を残したままとろみをつけることのできる工夫や取り組みをしている方がいらっしゃいます。他にも硬いものを軟らかくして、噛めるようにするなど様々な工夫が考えられます。困っている人と一緒になって、どうすれば食べられるようになるかを考えてみて寄り添うことが大切ではないかと考えています。」
学生:「40歳を過ぎると、口腔機能が衰えると聞きましたが、父親が、40歳をすぎてから食事中に、大きくむせるようになりました。自分も将来食事中にむせるのは避けたいのですが、今のうちにできる対策はありますか。」
清水先生:「今のうちからとにかく口を動かすことが大切です。友達と話すだけでもよくて、カラオケをすることでもいいので口を大きく動かして使うことをこころがけてください。」
学生:「若い頃から外国語を勉強したら、オーラルフレイルの予防になりますか。」
清水先生:「色んな筋肉(使ったことがない筋肉も含めて)を使うから、予防になると思われます。」
学生:「滑舌を改善するための方法は何ですか?」
清水先生:「ゆっくりとはっきり話すことを意識すること。発音のしにくいパ行などを特に意識して発音してみることで改善されます。講義の中でも話しましたが、アナウンサーの早口言葉のような練習をすることも効果的です。‘パタカラ‘も、くちビルディングのカレンダーの中にもあります。少しでも口の動かし方に気をつけることが口の筋肉を保つことができます。」
学生:「清水さんが様々なキャリアやくちビルディングなどの活動をしていて、大変だったことや課題などはありましたか?」
清水先生:「大変だったことは、まいにちくちビルの資料作成です。内容を考えたり、実際に形にしていく過程が大変でした。1000個以上考えて、実際に楽しく使ってもらえると選ばれたのは30個です。また、くちビルの活動を利用者さんに継続してもらうこともとても大変でした。この活動は、継続する事で効果を生むので、なんとか継続してもらえるよう頑張りました。」
学生:「以前のお仕事の経験から、今のお仕事に活きていることはありますか?」
清水先生:「海外へ行った経験やエスノグラフィをしていたことなど、ほとんどの経験が現在の医師の仕事にもくちビルディング選手権の活動にも活きています。救急科の専門医として資格を取りましたが、プライマリケア医として現在は一般外来の診療にも携わっています。講義中にも話しましたが、正しい医療を行うだけでなく、楽しく地域で広がる予防医療を広げることがやりたいことだと東日本大震災の時に気付いた部分もあって、医師になりましたから、これまでのいろんな経験が繋がって今に生きていると思っています。」
【受講した学生からの感想】
「まず初めに、お忙しい中私たちのために一時間もの録画やスライド、休憩時間での質疑応答など準備していただきありがとうございます!個人的に本日の講義で清水先生のお話を聞くのがとても楽しみでした!大学卒業後に就職してから全く異なるように見える職種に就いた先生の行動力がすごいなと思いました。その後も、やってみようだけでなく、現在も医師として活躍されている先生が画面越しではありますが、生き生きしているようにも見えました。清水先生が疑問に思ったことや、ミライを考え今ある生活の中から新しいものを発見し、今を改善していくことを全て行動に移されているのが『とてもかっこいいなぁ、私もこうなりたいなぁ』と思いながら過ごした1時間30分でした。自分自身、農業界の未来を変える一人になりたくてこの大学に通っていますが、清水先生のお話がとてもいい刺激になりました!」
「AIに負けない人間の強さは想像することだと思います。それを”くちビルディング選手権”と名付けて、生活者に押し付けるように改善するのではなく、楽しむことを忘れず少しでも能動的にできる改善策を見出されているのがこのイベントの価値をあげているのかなと思いました。そして何より今回のお話を聞いていたら実際にお会いして先生の話をもっと聞いてみたいし、くちビルディング選手権にも出てみたいなぁと思いました。」
「生活者がどうしたら楽しめるかという課題に対してエスノグラフィがとても生かされているのかなと思いました。私も将来、農業界の人手不足とヤングケアラーなどで社会復帰が難しい人たちなどを繋げられる人になりたいと思っているので、今回清水先生のような未開拓地を豊かにしている方に出会えてとても嬉しかったです!私も清水先生のようにキャリアの転換や新しい事へのチャレンジを恐れることなく行動していける人になろうと思いました!本当に、本日はありがとうございました!」
「先生のお話から、人生は自分で色を加えていくものであり、学びや成長は絶えず続く旅であることを学びました。先生のような素晴らしい手本があれば、私たちも自分の人生を豊かにすることができると感じます。」
「口の正しい訓練は、少し堅い部分があるためやる気が起きないが、クチビルディングは、スポーツという勝ち負けがある形でできるのでやる気もでるし、動画を見たらみんな楽しそうなのでやってみたいなと思いました。クチビルディングのカレンダーに、面白いものがたくさんあったし、これで防げるものがあるならやろうと思いました。また、キャリアの話を聞いた時に、人生に無駄なことはないんだと思いました。どんなことをやってもどこかで結びつくんだなと思いました。」
清水先生は、ご主人と3歳、0歳のお子さんの4人家族でお母さんでもあり、医師でもあり、地域活動のグッドネイバーズカンパニーの代表理事でもあり、それでいてまた違う未来の先を見ているそんなパワフルな先生です。益々のご活躍を祈念しています。
この度は、新潟食料農業大学のためにお時間をありがとうございました。
興味のある方は、グッドネイバーズカンパニーのサイトに紹介記事も申し込み方法も掲載されています。
くちビルディング選手権とは - くちビルディング選手権 (kuchi-building.jp)