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【第172回】江戸患い、そして、越後から米つき

コメは、本来、栄養豊かでバランスの取れた作物である。

また、生産面では連作が可能で、麦と二毛作など農地を効率的に使うこともできる。2058年には人口が100億人を突破という地球を養う決め手の作物は、「コメ」ではないだろうか。

生産・消費の規模は約5億トンと世界の主要穀物で、東西南北、多くの国に及ぶ。カロリーは、小麦、トウモロコシとも遜色ない水準、100g当たり350~360Kcal、サツマイモの2.5倍に当たる。また、玄米でならば、食物繊維、脂質、ビタミンB類、ミネラル(鉄、マグネシウムなど)が豊富で「理想の食品」だ

 

このように、世界各地で生産消費される背景には、小麦、大麦、

トウモロコシ、ジャガイモなど他の食料とも共存して、その国・地域の食文化に柔軟に対応できることを見逃せない。粒で食べる、

粉にして食べる、煮る、炊く、蒸すの多様な調理法が可能だ。

 「和食文化」という言葉があるように、食文化の尊重は重要だ。 

 

江戸患い

さて、日本では、コメの品種改良の進歩から、コメを白米にし(玄米からのとう精度の上昇)、粒状態で、炊いて食べる。かつて米粉での料理も盛んだったが、コシヒカリのように「白米、粒で、炊いて食べる」が、米粉より優勢になった。

その結果、歴史的経緯にも由来する現代の健康問題=未病など、医食同源の不均衡が生じている。いま、「もったいない」と併せ「見直しの動き」も始まった。         

                      ‐172‐①

そこで、「江戸患い」である。吉村昭の小説「白い航跡」には、

地方で元気だった人が、江戸に出て仕事をすると特有の「江戸患い」になるが、田舎へ帰ると元気に戻る。江戸の風土病か》というくだりがあって、やがて、これは、白米に搗精したために

失われたコメのビタミンB1の不足から来る「脚気だとわかる。

贅沢と思われた精白米での食事が、実は栄養不足をもたらして、戦争にも影響することにもなる。(雑賀慶二さん・夢ではないよ)

 

 明治の戦争で兵隊が病死するが、その原因を巡っては、陸軍の軍医総監・森鴎外と海軍の高木兼寛・軍医(慈恵会医大創始者)との間で論争があったように記憶する。高木説が正しく、かつ、予防法をも発見する。あの有名な「横須賀海軍カレー」は、多分、予防法の産物?だったのではなかろうか。

 

越後から米つき

この言葉は、「頼めば越後からでも米搗き(こめつき)に来る」、頼み方次第では、遠くの新潟からでも米を搗きに来てくれる、人は心から信頼され、また頼まれればイヤとはいえないものだという意味だそうだ。

背景には、雪深い信濃や越後の冬場の江戸への出稼ぎ(10月~3月)という事情があった。天保時代の調査には、冬場の江戸への出稼ぎ総人数は3万4000人と残っている。江戸の人々は食味の点で「よく搗精した白米」を好んだため、「春米屋」(つきごめや)が繁盛したそうだ。

 

医食同源を米で

時代が進むにつれ、搗精の技術・機械が進歩し、脂質、繊維、ビタミン、ミネラルも徹底的に失われて、現代病や不健康な未病状態が国民に広がり、医療費の増加をもたらす。

振り返って、「江戸患い」とはいえ、当時の搗精は、「杵」(きね)・水車で行うやり方だったから、完全に糠層が除去されるわけではなく、ビタミン、ミネラルも白米に残り、まだ救いはあった。    

‐172‐②

 白さを追求すれば確かに食味は向上する。さらに、玄米には、

調理しにくい、食べにくい、消化しにくいという「取り残された

玄米表層のロウ層」の部分がある。これを均等にカットし、その

難点を克服することが、最近の動きとして出てきている。

 

コメは世界を救い地球を養う

世界の飢餓人口は、現在、8億人に上るといわれている。ロウカット玄米やそのパックご飯をさらに進めて、「微細な粉にする」「あらかじめ火を通して調理を簡便にする」製品にまで広げるならば、食文化も壊さず、飢餓の人々に貢献できると思うのだが、どうであろうか。   ‐172‐③

 


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