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【第173回】地球温暖化、戦争・戦乱と北極海航路

ウクライナ戦争に端を発したサプライチェーンの寸断・制約は収まらないどころか、状況はますます悪化しつつある。さらに、地球温暖化・気候変動がこれに輪をかけており、抜本的な転換に取り組まなければ、とんでもないことになりそうな予感がする。




国際海運にはネックが数多い 

重要なサプライチェーンで危機が迫っているものの代表的な事例を挙げれば、①大西洋(欧米)~地中海~スエズ運河~紅海~マンダブ海峡~インド洋・アジア、➁ウクライナなど中欧部~黒海ボスポラス海峡&ダルダネス海峡~地中海、③ペルシア湾~ホルムズ海峡~インド洋、太平洋では、④マレーシア・スマトラ・ジャワにはマラッカ&スンダ海峡、⑤ガルフ(メキシコ湾)~パナマ運河~太平洋、そして、⑥北極海~ベーリング海峡~太平洋などがネックになる可能性、あるいは、すでになっている。




地中海・紅海航路に大きな危険が 

ハマス・イスラエルの戦闘は、イエメンの「反政府武装勢力」フーシ派による紅海での商船への攻撃に波及して、荷主企業や海運会社の多くが、安全を確保するために紅海での運航を取りやめ、その代替・転換航路を検討している。地中海~スエズ運河~紅海の航路をアフリカ南端の喜望峰回りにすると航続距離は約1.4倍に、航行日数は10日以上も延伸になると伝えられる。そうなれば、世界の経済への影響は、極めて大きいものとなろう。




北極海航路の可能性

もうひとつ大きな課題として地球温暖化と異常気象の頻発、永久氷海の縮小=海水面の上昇がある。新たな航路としての利用可能性もあるが、北極海は、スカンジナビア、ロシア、アメリカの国境を形成しており、地政学、軍事、国土の防衛などと深く関連し、この面から見て国際的枠組み(合意)が必要となるので、実際の利用には長い時間もかかるであろう。




地球温暖化と異常気象による海上輸送の制約

直近の事例として、「パナマ運河の航行制限」がある。この運河は「閘門式の運河」(日本が発明した航行方式=ダム&ロックス)であり、水路には、運河中央部の人工湖=ガトウン湖から水が供給されている。2023年は、異常干ばつのため水量供給が足らず運河航路水位が下がった。パナマ運河航行の船舶のサイズは、穀物運搬船の場合、通常5万トン(パナマックス・サイズ)であるが、これを減量し、また許容隻数も減らしたのである。仮に、アメリカ中西部などの穀物を太平洋へ出せないならば、効率の劣る貨車に切り替えるか、太平洋に面した輸入国は、むしろ、南米からの穀物輸入へと転換せざるを得ないであろう。(かつてソ連は、米国の穀物禁輸措置に対して南米への切り替えを図った)

以下に、フィィナンシャル・タイムス掲載・アメリカのヒラリー・クリントン元国務長官の「北極海航路に関するレポート」についてそのポイントを要約する。




  1. 北極圏は今後、非常に関心が集中する地域になる。(2013年)
  2. 北極圏ではその後の10年間、地球温暖化で海氷がますます解け続け、通常船舶による北極海航路の常時利用が、一層の現実味を帯びてきた。
  3. プーチン政権は、国内のエネルギー関連企業に号令をかけ、北極圏でLNGなどの開発を通じて権益拡大に努めてきた。
  4. ロシアは、同国沿岸を通過する北東航路の安全確保と称して北極海に軍事力を積極的に展開し、沿岸の米欧諸国との対決の姿勢を強めている。
  5. 周辺8か国は、1996年、ハイレベルの政府間協議体「北極評議会」を設立し協力促進を図ってきたが、ウクライナ侵略後は活動を停止している。
  6. 中露は、エネルギーの共同開発などで関係強化を図っている。
  7. ロシアは、使用停止していたソ連時代の軍事基地数十箇所を2005年から再開した。ロシア保有の戦略原潜11隻のうちの8隻は北極圏の「コラ半島」を母港としている。
  8. 北極海は、太陽光を反射して地球の気温を下げる「温度調節装置」と指摘され、気候変動対策の推進に向けては、ロシアを含む北極圏での協力再開が焦眉の急となっている。

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