学長コラム
【第38回】カツオの回遊と水産物の産地市場
江戸の初ガツオ
“目に青葉 山ほととぎす 初鰹” 旧暦の4月ごろ(いまの5月ごろ)に、伊豆沖にやってきます。
獲られたカツオは小田原、鎌倉、三崎湊などに陸揚げされて馬や舟で江戸へ急送されます。
ムカデのように櫓(ろ)を出した「八丁櫓(はっちょうろ)」の快速船(8人で櫓を漕ぐ)に積んで
江戸湾を突っ切って、日本橋魚河岸に向かうのです。
コールドチェーンの整備されていなかった当時は、スピ-ドだけが頼りで
また早ければ早いだけ値も高く、最初のカツオに1尾10万円近い値段がつくこともあったそうです。
カツオの回遊路
日本沿岸のカツオにはいくつかの群があり、主な2群の回遊路は
3月の先島諸島沖(西表島、石垣島)→4月の沖縄、奄美、トカラ諸島→5月の鹿児島沖へ。
別の群は、5月の伊豆諸島沖→6月の房総沖へ、そして、7月には、宮城県の金華山沖、三陸沖
やがて9月には、北海道沖のエサが豊富で黒潮、親潮の境目に達します。
8月ごろからは、エサを十分に食べて南下する個体も多くなり、これが「下り鰹」です。
一般に、痩せたカツオは鰹節に、下り鰹は生食に向くといわれます。
漁港と水産物産地市場
『港町ブルース』(1969年)には数多くの漁港が登場しますが
統計上の水揚げの多いのは焼津、銚子、八戸、境、枕崎あたりベスト5でしょうか。
<伊豆沖と江戸>のような狭いつながりの場合は産直でも済むのですが
いまのように1年間を通じて広くカツオの漁獲を続ける漁船の場合には
魚=漁場の移動に対応しながら、漁獲の都度、最寄りの漁港=「水産物産地市場」に立ち寄って
魚の陸揚げ→販売・入金→船員給与の支払い→燃油、漁具、エサの手当てなどが不可欠になります。
そうでないとつぎの漁場への出港もできません。
この機能・役割を果たしているのが「産地市場」です。
農水産物卸売市場の役割
消費地市場も産地市場も、基本的機能は共通です。
集荷→評価・販売(価値実現)→分荷・配達などですが
加えていまでは金融(必要な費用の用立て)、情報収集・提供などの機能も求められます。
モノ、金、ヒト、情報の集積が市場の優劣を決めるのです。
物流面だけを見て「産地市場はムダ、産地―消費地の直結が望ましい」というのは現実的ではないでしょう。
時代の変化と流通、今後の行方には目が離せません。