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【第90回】流域治水と農業水利施設

  

千曲川(長野)や球磨川(熊本)の豪雨・洪水のように、自然災害が多発しています。
そこで、従来型の治水を見直し「流域治水」の対応を取り入れるべきだとの声が大きくなりました。
流域治水=低水工事では、上中流部での溢水(いっすい)・洪水をあらかじめ織り込んでおきます。
いざという場合には水を溢れさせ調整地に滞留させる、水をなだめるやり方となりますので、下流の減災(=利益)のため上中流が不利益を被ることにもなります。
「上下流の合意形成(協定)」と常々の補償、迅速・完全復旧がカギでしょう。

つまり、「広域で対処、互いに痛みを分かち合い、あくまで公益を優先するのが基本」なのです。

 

連続堤防と「霞堤」

高く・太く・切れ目なく繋いで水害を防ぐ「連続堤防」は、平安時代に始まりました。
鴨川水防のため「防鴨河使」(ぼううかし)(国交省河川局に相当)が設置されています。

しかし、明治までは低水工事が主流でした。石川県に残る「手取川霞堤(てどりがわかすみてい)」はその代表です。
この川は勾配1/30(距離30mで1mの落差)という急流ですから、水の勢いを逃す堤防の設置方法が必要でした。
そこで、洪水時には川の水が溢れ出し田畑に流れ込むのを前提とした連続しない切れ切れの堤防にしていました。
<肥えた土が来る>とも説明しています。

 

農業水利施設の治水機能と田んぼダムの能力

農村地域に網の目のように張り巡らされた「農業用排水路」は、川から溢れた水を一定の期間貯留し、ゆっくり川に戻す機能を持ちます。
1998年の8月豪雨は、那珂川(なかがわ)下流の茨城県に大きな被害がありましたが、上流の栃木・深山(みやま)ダムと那須疏水(そすい)で被害は小さく抑えられました。
深山ダムが貯水量を増やし、疏水のネットワークが洪水を引き受けたのです。
田んぼの水面を10cm高く保つと1haで1,000立米=25mプール3面分で、日本の水田面積は約240万ha、大きな可能性はあります。

 

流域治水の体系

①広葉樹の森づくり
②水路の浚渫(しゅんせつ)・掘下げ
③水流を弱める信玄堤(しんげんづつみ)、舟形防水林
④溢水の侵入から守る畳堤(たたみてい)、輪中(わじゅう)
⑤水を溢れさせ貯留する霞堤、遊水地
⑥危険な地域への建築規制
⑦下水道貯水能力のアップ などです。
合意は大変ですが、やらなければならない時代です。


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