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【第105回】英語のこぼれ話⑤ バイデン大統領の演説

バイデン大統領の施政方針演説

4月下旬、アメリカのバイデン大統領は上下両院で「施政方針演説」を行った。
通常では、就任時の演説が注目を集めるのだが、今回は、「新型コロナ感染症対策」もあって、大幅に遅れた。

最近は便利なもので、日本文での報道・解説に加え、その英文バ-ジョンも、翌日には各紙に掲載される。かつては、リンカ-ンやケネデイのなどの名演説も後に出版される本で読んだのだが、便利なことにいまはすぐ目にできる。

(注)歴代大統領のうちから有名な演説を集めた「大統領の英語」(講談社・現代新書)が、学長室入口の書棚に置いてありますので、自由にお読みください。つぎの「リンカ-ン演説」もあります。

“ Government of the people , by the people and for the people.”

 

バイデン演説の特徴 

なかなかの工夫が凝らされている。聴いても読んでも分かり易い用語・構文で、ポイントを際立たせる見事な技法だ。以下に、いくつか例文を挙げてみた。

 

●対照的な数字を挙げて比較させる

55 of the nation’s biggest corporations paid zero in Federal income tax.

 (アメリカの巨大55社は、連邦所得税を払わなかった)

 

●所得層を分け、低所得層に手厚く、高所得層を批判する

20 million Americans lost their jobs.

(新型コロナ・パンデミックで2000万人が職を失った)

I will not impose any tax increasing on people less than 400,000 a year .               

(所得40万ドル以下の人々には、いかなる増税もしない)   

650 billionaires in America saw their net worth increase , the 1 trillion .

(10億ドル長者650人は、1兆ドルも資産を増やした)

 

●否定形を多用する

Doing nothing is not an option .

(私に、手をこまねいているという選択肢はない)

Trickle-down economics has never worked .

(トリクルダウン経済は稼働しなかった)

・・・ not looking for conflict ,but I made clear that I will defend American interest .

(摩擦は望まないが、米国の利益は守る)

 

●過去の大統領の演説を下敷きに深層に訴える

We  the people  ・・・  It’s US など

 

日本の総理演説 

通常は、各府省庁から「施政方針演説・所信表明に盛り込むべき事項」(短冊)を募集して、これをつなぎ合わせ、やり取りをしながら、秘書官や広報官が一文に仕立てていく。格調の高さは米国大統領のそれに及ぶべくもない。

もちろん、これは通常の一般的なやり方で、中には、鳩山内閣でのスピ-チ・ライタ-平田オリザのような優れた例外もあったと聞くが、その数は少ない。      


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