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【第122回】大きな循環、小さな循環 その1 水の循環

 

地球温暖化による異常気象の常態化は、様々な災害をもたらすだけでなく、「食」と「農」にも多大な悪影響を与えている。
このままでは地球の存続が脅かされるとの認識に立って、持続可能な発展(Sustainable Development)を図ろうと、2050年頃までに、「Co2排出量を正味ゼロにする」「産業革命後の気温の上昇を2℃以内にする」との目標を確実に達成するという合意が、2021年秋の<COP26グラスゴー会合>でなされた。

これをカーボン・ニュートラルというが、そのキーワードになるのが「循環」だ。
これまでの社会では、地球の資源を使い捨てる「一方通行の経済・リニア・エコノミー」だったが、これからの社会は、「循環の経済・サーキュラー・エコノミー」へと転換していくことが重要になって来るだろう。

そこで、この地球環境に重要な役割を果たす「循環」について、全地球的なものから身近なものまで、数回にわたり取り上げてみたい。

循環は、大きく①大気の循環、②水の循環、③物質(モノ)の循環に分けられる。
もちろん、これらの複合形態もある。
それと同時に、どの範囲を循環するかで大きな循環、小さな循環というとらえ方もできる。
「食と農のフード・チェーン」、「地域社会」を教育・研究や実践の対象にしている私たちとして、身近なところの小さな水循環から始めよう。

 

小さな水循環 路地尊・天水尊

これは、東京墨田区での取組みだ。
1994年(平成6年)に、「雨水利用東京国際会議」が開かれた。
そこでの標語は、「流せば洪水、貯めれば資源」というものだった。
区内に600基以上のタンクを設置し、雨水を散水・打ち水用水、防火用水、樹木用水に使う。
私の当時のメモには、「貯水量は23,000トン」と記されている。
この動きは、各国の参加者から称賛を浴びていた。

両国国技館の屋根

降る雨水を屋根で受けて水槽に貯留し、水洗トイレや打ち水、ときには融雪などにも用いている。
その量は、記憶では、約1000トンだった。

 

雨水浸透枡(ます)

東京の郊外、国立、国分寺、小平辺りだったと思うが、雨水を屋根からのドレイン経由で地中に引き込んで、地下水として涵養する。
市町村からは、そのための簡易な施設=浸透桝の設置には補助金も出ている。
自分でも、安曇野・穂高の実家で、庭の土中にたくさんの穴をあけた大型ポリバケツを埋め込み、そこへ屋根からドレイン(雨どい)を伝って流れる雨水を引きこんで処理してみたが、庭が水浸しになることもなく、また、草木には水が補給されてよい具合であった。

                     

湧水復活

これは、環境省(当時は「環境庁」)で仕事をしていたときの経験である。
湧水復活事業」という予算をつくったことがある。
高台の住宅団地などでコンクリート舗装をしてしまうと、大雨のときなどは、水が洪水のように流れて低いところの住民に大きな迷惑を及ぼすことがある。
そこで、コンクリートの舗装を「透水性のアスファルト」に変えてやれば、高台と低地の境い目辺りに、かつて存在した「湧水」が復活し、親水公園も生まれる。
東京だけではなく、最近は、全国各地の都市でも透水性の舗装が一般的になってきた。

余談になるが、東京の歩道は四角い敷石を組み合わせて置いたものだった。
安保闘争などの際に、その敷石が簡単にはがされて投石に使われたため、はがせない舗装に変えられ、歩行の障害になり、水循環上も好ましくないとして、「透水性アスファルト」に変わってきたのではないかと想像している。


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