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【第129回】食品の偽装表示と国産への信頼

産地偽装、それも全流通量の8割がニセものということが明るみに出て2月8日以来停止されていた「熊本県産アサリ」の出荷が再開された。(4/12)生産流通履歴制度(トレーサビリテイ)と販売協力店の認証(QRコードでの読取り)が条件である。しかし、長年にわたり続いてきたこの「商慣行」がそう簡単に是正されるとは限らない。

なにせアサリなど貝類の産地偽装は、「偽装ご三家」に次ぐ大ものであり、いわゆる「長いところルール」(長期滞在地=生産地)も悪用の常連だった。消費者庁の説明では、浜にアサリを播いたとしても、短期間では品質の向上は見られないという。一般的に「蓄養」と称している行為は、松坂牛、神戸牛のような飼育技術とは異なる。

 

偽装表示が起きる理由 

2008年出版の「食品偽装」(ぎょうせい社・新井ゆたかなどの共著)によれば、①消費者をだまし利得を得るため、②規模拡大優先・商品を増やすため、③返品を処分するため、④欠品を出さないための4つが、偽装の大きな理由である。産地偽装アサリは、①に当たる。

 

食品偽装のご三家 

古くから、①ウナギ(流通量の8割は輸入)、②牛肉、③コメ(コシヒカリ)といわれてきた。背景には、銘柄信仰、高級願望、舶来信仰、安全神話がある。

<旅うなぎ化粧につける江戸の水>、古くは江戸前へ、いまでは浜名湖産へのあこがれがこうした川柳を生んだ。一方、牛肉は、経済の高度成長下、一見「高級品」を欲しがる消費者につけ込んだダマシである。1960年の「ニセ牛缶事件」(クジラ肉、馬肉が牛肉の大和煮に化けた)は、食品偽装表示に対する是正運動の始まりであった。そして、「国産安全神話」は、2001~2008年にかけてのBSE汚染牛肉買上げ偽装事件、毒入り冷凍餃子(中国産)、事故米(本来は非食用)転売事件を契機にして広まった。

なお、コシヒカリ詐称のケースは、コシヒカリの流通量が生産量よりもはるかに多く、古い紙袋が高値で売れているといった風評を呼んで問題とされたが、食管制度の下で流通消費が制限され、格上げ混米や偽装表示が常態化していた統制経済がもたらした大きな弊害ともいえる。

他方、国産だからといって「必ず安全」とは限らない。関係事業者が衛生や表示の基準を遵守、消費者の要望に応えて情報を全面的に公開して、フェアーな選択が可能になる、真の意味でのコンプライアンス=応えるを守っていなければ問題は解決しない。コンプライアンスを「法令順守」と訳してしまったことから、「法令はギリギリを守ればよい」という考え方・行動が横行する。近江商人の道徳「お客よし、売り手よし、世間よし」に立ち戻らなければならない。

 

食品表示法制度の整備 

2015年にJAS法、食品衛生法、健康増進法の表示規制部分が統合されて「食品表示法」となり、食品表示の統一が実現した。また、並行して、牛肉や米には、「トレーサビリテイ法」ができて、食糧法、農産物検査法とも相まって、少しずつ前進は見られるが、水産の分野はやや立ち遅れている。ちなみに、海外では、コーデックス、HACCPなどの衛生基準、表示基準も厳格で、日本からの輸出事業者は、アメリカにもEU向けにもこれらを厳守している。

 

商品情報の開示が不可欠 

衛生基準を守るのは当然のことだが、さらに、適正な表示を通じて消費者・ユーザーに十分な情報提供をするのは、食の提供者の当然の義務でだ。1962年にアメリカのケネデイ大統領が送った「消費者の権利に関する特別教書」に、知らされる権利、選択できる権利が掲げられて、いまも輝きを失わない。

消費者は、時代とともに、保護される存在から、「主体的に判断し、行動する存在」に発展していくに違いない。必ず記録、情報の全面開示、監視、ルール違反には厳罰と即退場、関係者は、表示の根本を理解し、現実感と緊張感を持って事業に従事していかなければいけないと思う。


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