学長コラム
【第140回】交通の利便と安全
長崎新幹線の開通
9月23日、「長崎新幹線」が開通した。
といっても長崎₋武雄温泉間のみで、博多₋武雄温泉間は「在来線特急に乗り換え」である。
在来線の扱いについて、佐賀県の財政負担が膨大になることから、「なお検討を継続」になった。
そこで、在来線への乗り換えの利便だが、これは新潟駅とまったく同じやり方と感じる。
上越新幹線が新潟駅に到着すると、接する5番線ホーム特別改札扉が開き、乗客は「特急いなほ」に水平移動で乗り換えることができる。
乗り換え時間の余裕は約8分、随分便利さを感じている。
在来線の線路幅に合わせて車軸幅を調節する乗り換えなしの「フリー・ゲージ・トレイン方式」(FGT)も検討されたようだが、まだ実用化には至らない。
JR総武・中央線ホームの改良
ホームの改良工事で乗客の安全と利便性を高めた最近の事情についても触れたい。
JR中央・総武線の飯田橋駅は「日本一危険なホーム」として知られていた。
なにせ、その曲がり具合は尋常ではない。
このホームは、2020年7月までは、半径300mのカーブ上に建設された「超湾曲」であった。
旧飯田町駅と旧牛込駅が統合されて1本のホームになっていた。
近くには養護学校もあってハンディを持った人々が利用するのに、JRはなかなか改良に着手せず、ようやく、今から2年前に市ヶ谷方向にストレートな新ホームを建設した。
あれこれできない理由をつけて消極的だったJRも、時世にはかなわず、知恵と工夫と若干の予算で抜群の安全度向上である。
各路線の相互乗入れで幅と位置が難しいといっていたホームドアーは、ゆとりのある広幅に工夫し、車椅子の脱落・転落防止のために、ごくごくわずかだがホームから線路方向に張出しを作り、解決している。(市ヶ谷駅)
「できない、できない」ではなく、「やればできるじゃないか」なのだ。
ホームからの転落事故防止・発想の転換
全国では、年間3000人以上が駅のホームから転落していて、その6割が酔客だという。
ただ、千鳥足でホームの端を歩いていて足を踏み外すというパターンは少なく、「ホーム・ベンチから突然立ち上がって、電車の方向にまっすぐ歩き出し、そのまま数秒で転落」という突撃型が過半だと、JR西日本の調査で判明した。
そこで、同社は、新大阪や広島など71の駅でベンチを線路平行型から線路垂直型に変更したところ、その効果が表れた。
客観的な映像情報での調査と発想の転換による成果である。(日経のコラム「春秋」から)
大糸線ホームの忘れ物
実家のある穂高、大糸線の最寄り駅「柏矢町」での目撃である。
4月の末、松本に向かう列車に乗ろうかとホームに上がったところ、黒いスエードのハイヒール靴がそろえて置いてある。
駅ホームは低く、飛び降りできるような状況ではない。
そこで、駅の業務を受託している市役所の職員を呼んで、とりあえず保管をさせたのだが、その職員がいうには、「ときどき、わざと捨てていく輩がいるが、これはまだ新しいし、きちんとそろえてある。スニーカーに履き替えたときに忘れたのでしょう。」
ここからは連想になる。
それより10年以上も昔、関門海峡を見下ろす展望台がある公園でのこと、駐車場から、ワゴン車が走り去った後には「子どものスニーカー」が残されている光景を見たことがある。
家族の決まりとして、車内を汚したくないので「車内ではスリッパに履き替えるというケースがある。
おそらく、子どもが履き替えた後、運転をしている方は靴の残っていることを気付かずに出発してしまったのだと思う。
微笑ましいような、楽しいような、かわいそうな一件であった。