学長コラム
【第144回】ひっ迫する肥料需給とグリーン・ニューディール
ロシアのウクライナ侵攻と経済制裁の影響で、わが国の肥料需給は深刻な状況にある。
肥料の三要素を構成する窒素(N)、リン酸(P)、カリ(K)の原料については、世界貿易の構造面で、ロシア、中国への依存が大きい。
例えば、ロシア産の原料が占める世界貿易シェアーは、Nが第一位(15%)、Pが第三位(7%)、Kが第二位(12%)である。
また、これを日本側から見ると、尿素(N)は37%を中国に依存、りん安(N・P)は90%を中国に依存、塩化カリ(K)はカナダに59%、ロシアに16%、ベラルーシに10%依存している。
日本の国内自給率は 「ほぼゼロ」 である。
サプライチェーンの途絶に備えた体制の整備が急がれる。
当面の価格高騰対策、緊急時への備蓄の強化、そして、中長期的には、化学肥料への依存率を引き下げるグリーン化である。
みどりの食料システム戦略のポイント
2021年5月に策定されたこの戦略をごく簡単に説明すると、農林水産業の環境負荷軽減と生産性の向上の両立を目指し、2050年までに、農林水産業のCo2排出をゼロにする。(ゼロエミッション)
そのため、①化学農薬の50%削減、②化学肥料の30%削減、③有機農業耕地面積を25%に拡大といったところだ。
EUの目標と似ているようには見えるが、EUの目標年次は2030年、こちらは、天然ガス輸入の削減下で窒素肥料不足に悩んでいるので、その動向・帰趨が注目される。
代替肥料原料の開発・利用
このところ俄かに浮上してきたのが、下水汚泥やし尿からの肥料成分の抽出・活用である。
たしかに、これらには多くのリン(P)が含まれ、計算上は、年間需要の約2割、30万トンが利用可能とされている。
だが、気をつけなければいけないのは、カドミ、水銀などの重金属、ダイオキシン、ベンゼンなどの有機化合物も含まれており、これをどう除去して使うかが課題である。
ちなみに、ドイツ、フランスでは、利用が禁止されていると聞く。
草木灰の利用
薪ストーブなどから出る「草木灰」の利用はどうだろうか。
循環と持続を重視する「焼畑農業」が「灰の文化」といわれるように、肥料としての役割があることは間違いないし、江戸時代には商家などのカマド下の灰を集めて販売することもあったらしいが、現状での留意点は、肥料取締法で事前の成分の点検・表示と流通・販売に届け出が必要である。
かつて書類送検されたとの例やメルカリが出品を停止したという報道もある。
漬物に利用後の米ぬかやコーヒーかすも要注意である。
売れる堆肥づくり
つぎは伝統的な肥料の「堆肥」である。
自分で堆肥をつくり、自分で利用するならよいのだが、これを流通させ、商品として利用させようとするならば、まずは、先に述べた肥料取締法のルールに従うことが肝心である。
結論として、堆肥の可能性は極めて高いと考える。
一方、逼迫する肥料需給を解決するためには、自家利用にとどまらず、流通需要に応えなければならない。
そのためには、①完全な発酵性、②成分の安定性、③土壌残留・汚染の解決、④広域流通を可能にするペレット化とコスト・価格などが課題となり、これをクリアしなければならない。
いずれにせよ、肥料は生産物のために投与するのだから、徹底・客観的な土壌調査と監視が前提で、さらに、大原則である適材を適量、適所に用いるという農業技術の向上・普及だろう。
また、事前の土壌調査では、これまでに土中で蓄積してきた過剰肥料成分を掌握することも考慮する必要がある。