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【第161回】今西錦司 ‐ 「すみわけ理論」 と 「生物の世界」


農作物の世界で、優れた品種を開発する手法としては、選抜(たまたま見つかったよい品種を種子や接ぎ木で拡大していく)、淘汰(劣る品種には子孫を残させない)、交配(異なる種類のおしべ・めしべを掛け合わせて、優れた新品種を生み出す)、ゲノムの編集、遺伝子組み換えなどがあるが、いずれも背景には「優勝劣敗」の発想があると思う。

 

種の起源(1859年) 

イギリスのチャールズ・ダーウイン(1809~82)は、「生物は、弱いものは生存競争に敗れて滅び、環境に適したものが、生き延びて進化していく」と説いた。これが、中学校の社会科教科書にも登場する「いわゆる進化論」である。

 

「すみわけ」 による進化論へ 

「競争と自然淘汰」に異を唱えたのが日本の科学者(昆虫学者)今西錦司である。1933年の夏、京大理学部の講師をしていたころ、昆虫採集のフィールドだった鴨川で、一つの発見をする。

川の中に棲む4種類のヒラタカゲロウ幼虫が、川の流れの速さに応じてきれいに分布していたのである。もし、弱肉強食、競争による自然淘汰であるならば、「究極の世界では、1種類の生物しか生存しなくなる」はずであるが、ここでは、4種の生物が、いずれもすみわけながら共存している、つまり、生物同士の生存競争は生き残りゲームではなく、共存して「すみわけつつ進化する」と考えた。

また、今西は、この考え方を他の場所でも検証し、これを「生物の世界」として発表する。太平洋戦争勃発の1941年のことであった。今西の「すみわけ」は、イギリスの科学雑誌(たぶんネイチャー)に「反ダーウイン説」として紹介され、世界に進化論論争を巻き起こしたが、いまでは、「今西進化論」「今西自然科学」として定着、認められている。

(注2)アメリカなどでは、人間を含む生物は「進化論」によるのでなく、聖書にもあるように、「創造主」の神がつくったという説を信じる人々が4割近くいると報じられている。別の意味での「反ダーウイン説」や「反進化論」も根強いという。

(注2)「生物の世界」は、いまも文庫本で販売されており、かつ、人間の社会にも通じる考え方、生き方の上でも大いに参考になると思うので、ぜひ一読を勧めたい。入手は、容易である。

 

南高梅の発見 

冒頭に戻り、「日本一の梅」として評価が高い「南高梅」に触れておきたい。和歌山県みなべ(南部)で発見され、優れた品種のみを後代に伝えて拡大してきたもので、1950~1955年ごろに、地域の品種として確定した。いわゆる選抜型の育種といえる。調査・育成に尽力したのが「校」の竹中教諭であったため、南高梅の名称がつけられたと伝えられ、2006年には、地理的表示G Iに登録されている。


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