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【第167回】一票の反対 ‐ ジャネット・ランキン

太平洋戦争 

皆さんは、12月8日という日がいまからおよそ80年前、日本の海軍がハワイ真珠湾のアメリカ海軍基地を攻撃、「太平洋戦争」の始まった日であることをご存じでしょうか。
そして、その攻撃があったとき、アメリカ議会が当時のルーズベルト大統領に「日本への宣戦布告」をするよう要請する決議を採択しようとしたのに対し、ジャネット・ランキンという女性政治家ただ一人が、「私は戦争に反対である」と反対票を投じたのです。ランキンはモンタナ州選出の下院議員でした。下院議長は、全会一致にしようと、ランキンの反対発言を封じてしまいました。

 

全会一致はリスク 

さてそこで、「全会一致=反対者なし」とは、民主的なのでしょうか、意思決定の仕方として正しいでしょうか。経営学者のドラッカーは、「全会一致はリスク」といいます。なぜなら、「会社経営の例でも、意見対立がなければ適切な判断が下せないから」と指摘しています。

皆さんに、「多様性を大切にする」「みんな違ってみんないい」「質問をし、提案をして、議論を深めよう」といってきました。

決定に至るプロセスが大事で、これから話すいくつかの例では、「全会一致=反対者なし」の形を繕うために、脅しや暴力で反対意思の表明を妨げてきました。これらの過去の実例を参考にして、大事なことはどういうことなのか、よく考えて欲しいと思います。

                     

ヒトラーの全権委任法 

第2次世界大戦を引き起こしたドイツのヒトラーですが、ときに、「形の上では民主的なプロセスによって政権を奪取した」などと指摘する人がいます。

しかし、この「国家と国民の危難を除去するための法律」は、憲法に抵触するため、成立には2/3以上の賛成が必要でした。かろうじて過半数にしか過ぎなかったナチスは、これを確保するため、国会の焼打ちを共産党の仕業とし、連立与党を巻き込み、反対議員の登院の排除、票決からの除外などあらゆる手段を行使して、まず2/3を獲得、やがて反対者を抱える中央党も脅しに屈して、全会一致で成立するのです。形は民主的とする全会一致ですが、このような裏があったのです。(1933年)

 

日本の国家総動員法 

こちらにも同様のプロセスがありました。「必要があれば議会の承認を得ずに戦争のための物資徴収、労働力動員を強制的にできる」という内容の法律案でしたが、ナチスドイツの場合と同様に、切り崩し、脅しその他のあらゆる手段の行使により、結局、委員会、本会議とも満場一致で可決、日本が、戦争をやりやすくする状況を作り出しました。(1938年)

全会一致や圧倒的多数での議決には、事後に続く悲惨な事態が見えていない、雰囲気に流されてしまう危険がつきものです

 

野中広務の 「委員長経過報告」 

以上の話に関連し、1997年の野中広務さん(衆議院の沖縄北方対策特別委員長)の本会議経過報告に触れておきます。そのときのテレビ画像は、声は上ずって、手は震え、並々ならぬ覚悟での発言と思えました。その重要点は、「今回の審議が、どうぞ、再び大政翼賛会のような形にならないよう若い皆さんにお願いしたい」との訴えかけです。

沖縄米軍基地の継続使用手続きの簡素化に関する法律、野党も加わって、圧倒的多数で可決されたことに対し、後に、野中は、「国会が、辛うじて僅差で可決できたぐらいの緊張感を見せて、沖縄の基地への厳しい思いを米国に表すべき」と、語っています。

 

ことに、軍事力行使につながる国家の意思決定は、全会一致や圧倒的多数で決まったからといって、正しい方向ではない場合が多いのです。「熟議」を尽くした後に決める、” 戦争をしない、させない方策・方向 ” 慎重に、深く考えることが不可欠だと思います。 


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