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【第10回】食、食べ物、食品、食料、食糧の違い?

清水寺の大黒天。米俵に乗る五穀豊穣の神。ちなみに五穀とは、多くの場合、米、麦、粟(あわ)、豆、黍(きび)または稗(ひえ)を指します。



食、食べ物、食品、食料、食糧の違い?

 食や食料に関する言葉は色々あります。
 その違いや定義を知りたいと思って調べますが、はっきりしません。
 食べ物、食べもの、食品、食料、食糧、食餌などは類語であり、それぞれの言葉の概念に明確な違いはない、と記されていることもあります。普段はこれらの言葉の違いをあまり意識しないで使っています。とはいえ、多少のニュアンスの違いや明確な使い分けもありますので考えてみましょう。
 「食」は、他の言葉よりも広い意味を持ちます。
 「食物を食べること」と「食用に供するもの」の両方の意味を持ちます。食べる動作と食べられる物、言い換えれば「コト」と「モノ」両方の意味を持ちます。食の楽しみという時は「コト」、食の安全性というときは「モノ」の意味になります。
 「食物」とは、食欲を満たし、生命を維持するために口から摂取するものと説明されます。ただ、食べ物、食べもの、食品、食料、食糧、食餌などの言葉もこれと同じように使われ、食物と明確な区別はありません。
 「食品」には「嗜好品」は含まれず、「嗜好品」を含む「食物」と異なるという考え方もあるようですが、これもはっきりと区別されているわけではありません。
 つぎに「食料」と「食品」を比較してみましょう。
 「食料」は生産者に近い場合に使われるのに対して、「食品」は消費者に近い場合に使われるとされることもあります。ただ、これも厳密ではなく、たとえば、食品衛生と言う場合は、生産現場における「食品」が重要な対象で、生産者に近い場合に使われています。「食品」は必ずしも消費者に近い場合に使うとは言い切れません。
 最後に、「食料」と「食糧」の違いを見てみましょう。発音が同じため、ワープロの変換でもよく間違えられますが、ここには明確な違いがあります。
 「食料」とは、天然物、農産物あるいは人工的に製造または加工したもので、食用に供するもの食べ物全般を指します。生のまま食用とされるもの、調理を必要とするもの、工場製品を含んでいます。
 一方、「食糧」は、米や麦など穀物を中心とした主食物です。「食料」よりも意味が限定されています。元々、「糧」は「旅行や行軍の際に携帯する食べ物」の意です。



法律における食品の定義

 食品に関しては、いくつかの法律で定義されています。
 「食品安全基本法」によると、『すべての飲食物 (薬事法(昭和三十五年法律第百四十五 号)に規定する医薬品及び医薬部外品を除く。)をいう』とされます。
 「食品表示制度、2020年」では、『加工食品(製造・加工)と生鮮食品(調整・選別)。そのまま(生あるいは調理済み)、あるいは簡単な調理で食べられる品』です。
 「国際食品規格委員会 Codex Alimentarius Commission」(コーデックス委員会ともよばれ、消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保等を目的として、1963年にFAOおよびWHOにより設置された国際的な政府間機関であり、国際食品規格の策定等を行っています。我が国は1966年より加盟しています)によると、『人が通常の食事として摂取するもの、またはその成分。栄養補助食品を含むが、医薬品は含まない』とされます。 
 食品安全基本法の食品には、一般食品、特別用途食品(病者用食品や乳児用粉ミルクなど)、保健機能食品(特定保健用食品および栄養機能食品)が含まれており、国際食品規格委員会と同様に栄養補助食品が含まれています。医薬品は口から摂取しますが、食品には含まれないという考え方は同じです。

(中井ゆたか)


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