【授業紹介】味噌からMISOへ!〈食料・農業・青木光達:あおき味噌株式会社〉
10月2日、1年次必修科目『食品学概論』で、新潟県上越市三和区法花寺にある あおき味噌株式会社 青木光達社長にお越しいただき、味噌の歴史、発酵産業、製造過程、国内外での需給政策や可能性についてお話をいただきました。
青木社長は創業者の父の後を継ぎ、2代目社長を務めておられます。家業を見て育つうちに発酵、醸造に興味を持ち、東北大学農学部で応用微生物学を専攻。大手しょうゆメーカー「キッコーマン」の研究所で8年勤務した後、地元に戻り同社で30年以上みそ造りに携わっておられます。
日本の伝統的調味料であり、塩味調味料である味噌ですが、そもそもいつ誕生したのか?古代中国の「醤(ひしお)※1)や「鼓(し/くき)※2」という食品が飛鳥時代に日本に伝わって味噌へ発展した中国発祥説と、古代日本で誕生した塩漬け食品が発展した日本独自説があるようです。
※1「醤」鳥や獣の肉をたたいて潰し、穀物・麹・塩で漬け込んだ発酵食品。
※2「鼓」大豆や穀物と塩から作られた発酵食品。
そんな味噌は日本でオリジナルの進化を遂げていきます。鎌倉時代(約900年前)まではそのまま調味料として食べられていたようですが、室町時代(約800年前)から「みそ汁」が飲まれ始め、広くみそ汁が普及したそうです。
そのような歴史がある味噌造りには、中国が原産地の大豆とともに水、塩、醗酵菌が欠かせず、さらに微生物が重要な役割を果たすそうです。
造りの極意を表す格言は、一に麹。二に炊き。三に仕込み.(例:酒・・一に麹、二はもと、三は造り。醤油・・一に麹。二に櫂、三に火入れ)。新潟でなじみのある「米みそ」を造る過程では、米こうじ、潰した大豆、塩とともに、酵母・乳酸菌を入れてタンクに入れ、醗酵(天然醸造、加熱)、調整、充鎮させて熟成するそうです。
現在、味噌の種類別製造の割合は(令和5年)は米みそ(82・1%)、麦みそ(3・7%)、豆みそ(4・6%)、合わせみそ(9・6%)とのことです。
味噌には北欧の発酵食品であるチーズのように多様性があり、地域性によっても表情を変えます。全国的に分布されている「米みそ(白みそ)」はそれぞれ強い特徴を出しており、京都では西京漬け、お菓子の材料、雑煮などに使われるようです。九州地方は甘さに特徴を持つ「麦味噌」が好まれるとのこと。渋みが特徴の「豆みそ」は愛知や岐阜、三重といった東海地方で味噌煮込みうどんや味噌カツなどに加工されています。
授業では4種類の味噌を学生が味見。それぞれが味の好みを言い合っていました。
青木社長は研究者としての知見はもちろん、取引先などの細かなニーズに応え、衛生管理が難しい食塩濃度の低いみそ作りにも挑戦し、30種類100商品を取り扱っているそうです。「伝統も時代に合わせて形を変え、進化していかないといけないですね」と思いを語っていただきました。
長く日本で愛されている味噌ですが、時代の流れとともに食生活の西洋化にともなって和食離れが加速。1年で一人が食べる量は昭和50年の6・4キロから、令和5年では2・1キロに減少しているようです。しかし、2013年の「ユネスコ無形文化遺産」に指定されたことで、味噌は国外から注目を浴びているようです。基本的に外国人は塩辛い味噌(汁)を好まず(味噌汁は90度、スープは70度)、海苔や納豆と同じように「デビルスープ」とも呼ばれて来たそうですが、マクロビオティック(日本人が提唱し根付かせた食生活の知恵)など健康食として評価が急上昇。2023年実績では米国、韓国、タイ、イギリス、中国の順で輸出量は伸びているとのことです。
アジアでは日本食(日食)に向けた味噌汁ディスペンサー機械(汁味噌を使用)が普及中。味噌の嗜好性に関しては各国で特徴があるようで、欧米では白系の甘めの味噌が好まれる傾向にあり、東アジアではだし入り味噌が普及。韓国ではもともと現地製造の味噌メーカーの造る味噌が濃い味噌だったことから、色の濃い合わせ味噌が普及しているそうです。
「味噌」から世界の「MISO」へ。可能性は無限大です。
青木光達(あおき・てるみち)1960年7月3日生まれ、新潟県上越市出身。高田高校から東北大学の農学部へ進学。キッコーマンの研究所を経て家業へ。県味噌醤油工業協同組合で副理事長や技術部会顧問を務め、技術指導など後進の育成にも力を入れ、2023年には卓越した技術を持つ「現代の名工」にも選ばれている。品質向上や味噌だけにとどまらない商品開発に取り組み、全国味噌鑑評会では昨年までに27回連続で入賞。このうち最高賞の農林水産大臣賞を8回受賞し、味、品質共に高い評価を得ている。2025年にその道一筋に打ち込む人に贈られる黄綬褒章(農業や商業、工業などの業務に精励し、他の模範となるような技術を持つ人をたたえる)を授賞。